「超有名な神社以外は、おそらくなくなるんじゃないか」
啓一さんは宮司夫妻から可愛がられているという。
「とにかく誠実に接しています。70代の宮司夫妻は今こそ元気ですが、この10年のお付き合いで、衰えは伝わってくる。口にこそ出しませんが、収入も激減していると思うんです。昔、イベントの後は直会(なおらい)しましょうと、近くのしゃぶしゃぶ屋さんに連れていってくれたのですが、それがお弁当になり、今は何もないです」
神社の収入源は、お賽銭、お守りやお札の初穂料、そしてご祈祷や地鎮祭などだ。
「10年くらいまでは、神様を心から信じている人が多かったと思います。宮司さんの話では、かつては出張の祈祷も多かったそうです。例えば、工場が新しい機械を入れたときのご祈祷に呼ばれるとかね。あと企業でご祈祷を依頼する人が、本当に減りました。事業年度が始まるときに、祈祷のために社員や役員を連れて来る社長もほぼいない。あとは、氏子さんも高齢化しています。神社を支える人がいないと、衰退していくばかり」
宮司さんは、かつて地元の商工会議所の役員を行い、地元の発展を支えていたという。でも、今地元には目立った産業もなく、後継者不足で廃業が続いている。そんな宮司夫妻にも子供がいない。
「遠縁にあたる30代の男性が跡を継ぐために、どこかの神社で修行していると聞いています。かつて、大学で神職過程を修了した一般家庭出身者の志願者がいたそうなんですが、宮司さんの仕事が大変で辞めてしまったそうなんです。毎日、神社にいなくてはならないし、境内の維持も必須です。お金のことも考え、奉納を募り、ややこしい氏子さんの人間関係の中に入り、お付き合いもある。常に愛想よく接して、平常心を維持しなくてはならない。神社同士の人間関係もありますから、本当に大変だと思います」
アルバイトの手配、お札、お守り、おみくじなどの仕入れをするのも宮司夫妻だという。いずれも値段も上がっており、神社の中にいると、儲かる仕事ではないことがわかる。かつて、500円のお守りに、1000円札を出し「受け取ってください」という参拝客が多かったが、いつの頃からか、皆がきっちりお釣りを受け取るようになったという。
「それどころか、お守りの万引き、賽銭泥棒もおり、その度に宮司さんは少し傷ついているようにも感じます」
少しでも役に立ちたいという思いが強い啓一さんは、神社に深く関わるようになってから、書道の練習も始めた。
「御朱印や、お札に“家内安全”とか“商売繁盛”と願いや名前を書くお手伝いをしたかったから。でも、ご祈祷する人が10年前の半分以下になってしまったので、お任せいただく機会はないかもしれませんが」
啓一さんは「超有名な神社以外はなくなるのではないか」と予想している。
「僕が神社に救われたように、日本人の心を神様は照らしていると思うんです。家の近くには地元に密着した氏神様がいるんですよ。定年後に、そこに深く関わることができたのは、幸せなことだと思っています」
神社に関わることは地域コミュニティに入ることでもあるという。ただ、無償奉仕が基本の氏子になることは、負担が大きい。「アルバイト程度の関わりが、いいのかもしれません」と啓一さんは結んだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。