取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
* * *
コロナで会社の業績が悪化し、妻の治療代がかさんでいく
幸三さん(仮名・69歳)はIT系のコンサル会社を経営している。今の悩みは、大学卒業後、“家事手伝い”を18年間行っている娘についてだ。
【これまでの経緯は前編で】
18年間働いていないという娘本人に「働きたい」という願望はあったのだろうか。
「ないと思います。そもそも、あんな甘ちゃんに仕事がつとまるとも思えない。一度、娘が26歳くらいの時に、妻が気を効かせて“まーちゃん(娘)もお勤めしてみれば?”とアートギャラリーの仕事を持ってきたのですが、娘は給料欄を見ると、“こんなに働いても、ワンピース1枚も買えない。それなら働きたくない”って言ったんです」
それ以来、仕事の話はしなくなった。でもそれでもよかったのだ。今から15年ほど前までは、幸三さんの会社も右肩上がりの成長を続けていたのだから。
「コロナ禍以降は、社会の仕組みが激変し、クライアントが倒産したり、別の会社にコンサルを依頼したりするようになってしまった。社員の半数を整理しなくてはならないし、妻のがんが再発したこともあり、夫婦の時間を持ちたくなった。不安なのは、私達の老後を豊かに過ごす金はあっても、娘の一生を面倒見切れるだけの金がないこと。妻の治療施設の費用もかさむ。金融資産やアート、持ち家やマンションなどもあるけれど、娘だけなら20年もしないうちに使い切ってしまうだろう。会社を継がせようにも、自分の事しか考えていないバカに務まるとも思えない」
つまり、このままでは、娘は確実に路頭に迷う。40歳からでは、就職も難しい。ところで、幸三さんは娘に毎月いくら渡しているのだろうか。
「今は60万円です。娘には朝食の準備をさせているので、その食費なども含んだ金額です。貯金はしているとは思うけれど、買い物もしていますからね。欲しいものは妻がなんでも買い与えていた。長男は妻と距離を置いていたので、妻は娘を猫かわいがりした。性根は腐っているけれど、見た目はかわいいからね。施設に入る前まで、娘のことを着せ替え人形のようにしていた」
幸三さんの妻も美しい。2人がドレスを着て、劇場の前でたたずんでいる写真は、絵のようだった。
【容姿は整っていても、嫁の貰い手がいない……。次のページに続きます】