一昔前は、定年は会社員人生の終わりというイメージでした。元気な高齢者が増えた今、定年後も仕事を続ける人は6割を超えています。これは少子高齢化の進展により、高齢者が活躍するための様々な環境整備がなされたことが大きな要因といえるでしょう。

「高年齢雇用安定法」の改正により、希望者全員の65歳までの雇用確保は企業の義務となりました。けれども、待遇を維持することが義務化されているわけではありません。定年後雇用の場合、給与などの待遇面については定年前とは大きく変わるのが現実です。

今回は、定年後再雇用の給与の問題について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
定年後の再雇用の給与相場
再雇用の給与が下がる理由
再雇用による収入減をサポートする制度とは
まとめ

定年後の再雇用の給与相場

「高年齢者雇用安定法」は、少子高齢化で人口が減少する中、働く意欲のある高齢者の環境整備を目的として、改正が行なわれてきました。企業は、希望者全員の65歳までの雇用確保措置として、「定年の廃止」「定年年齢の引上げ」「継続雇用制度の導入」いずれかを実施することが義務化されています。

実態はどうかというと、定年の廃止や引き上げを選択する企業は多数派ではありません。厚生労働省が発表した令和4年の「高年齢者雇用状況報告書」によると、約7割の企業が継続雇用制度を導入しています。定年後の再雇用は継続雇用制度の一つなのです。

給与はどのように決まる?

再雇用を希望した場合、給与はどのように決まるのでしょうか? 定年の廃止や引き上げの場合、正社員の身分は維持されますが、再雇用はいったん退職して再び雇用契約を結ぶ制度です。こうした雇用形態の変更などにより、再雇用後の給与は下がることが一般的です。

国税庁が公開している令和2年の民間給与の実態調査によると、60歳代前半の給与は、直前の現役世代に比べて、男性は22%減、女性は17%減という結果になっています。ただし、これは雇用者全体を見た数字ですので、定年後再雇用という条件に限定すると、給与を定年前の50%から70%に設定している企業が多いのが実状です。

多くの会社では、定年再雇用後の規定については就業規則などに明記されていると思います。説明会などを実施している会社も多いので、定年後の待遇については早めに確認しておきましょう。定年後再雇用が決定する前には、意思確認及および雇用契約の締結の手続きがあるはずです。

契約内容、特に給与については、しっかりと確認することをおすすめします。

再雇用の給与が下がる理由

定年再雇用の形になったものの、実際は定年前と同じような仕事を続けている人は少なくないと思います。定年を理由に、給与を下げるのは違法にはならないのでしょうか? この場合、給与の減額に合理性があるかということが問題になってきます。

給与が下がる理由の一つは、雇用形態が変わることによる支給内容の変化です。定年後、役職を外れると役職手当が支給されなくなります。また、非正規雇用になることにより、賞与が減額または支給対象外になる会社も少なくありません。このような理由で年収が大きくダウンすることが考えられます。

業務内容の変化が理由の場合も

もう一つの理由としては、業務内容が変わることによる給与の低下です。全く同じ業務、同じ職責なら、同一労働同一賃金の原則が基本であることは確かです。けれども、同じような仕事に思えても、実際には次のような変化がある場合もあります。

・役職から外されることにより職責が軽減された。
・部下を管理・評価する役割がなくなり、業務範囲が小さくなった。

もしもこのような変更がなされているなら、給与を減額するのはある程度合理的な理由があると言わざるを得ません。ただし、減額の程度が妥当かということは判断が難しいケースもあり、裁判に発展した例もあります。

3割以下という極端な減額になった例や、精勤手当のような一定の条件を満たしたものに支給される手当を、不支給にした例などは、裁判で違法と判断されています。また、何の根拠も示さずに給与を下げることが、違法とされた判例も存在します。

再雇用による収入減をサポートする制度とは

定年後、納得して再雇用契約を結んだとしても、給与が減額になるのは切実な問題です。賃金低下による収入減をサポートする制度としては、雇用保険の高年齢雇用継続給付金という制度があります。これは、60歳到達前の賃金に比べて、60歳以降の賃金が75%以下に低下した場合、低下率に応じて、低下後の賃金の最大15%までの給付が受けられる制度です。

被保険者期間が5年以上あること、60歳から65歳までの期間限定であることなどの条件がありますが、受給対象となる人にとっては、経済的な恩恵が大きい制度です。ただし、この制度は現在見直しがされており、令和7年4月より段階的に縮小・廃止される予定です。

高年齢雇用継続給付金の目的

高年齢雇用継続給付金の制度は、もともと高齢者が65歳まで働ける環境を整備する目的で作られました。今は、65歳までの雇用確保が義務化されており、70歳までの雇用も努力義務となっています。縮小・廃止の流れは、制度が一定の役割を終えたという考えが背景にあると言えるでしょう。

収入減を補う方法は、公的な制度以外にもないわけではありません。就業規則で副業が禁止されている会社でも、定年によって雇用形態が変わったことにより、制限がなくなることもあります。再雇用後に勤務日数や、労働時間が減って余裕ができた場合などは、副業で収入を確保するのも一案です。退職金や貯蓄を投資に回して、積極的に利益を得る人もいるでしょう。

高齢になると、健康や体力面で不安を抱えることも多いものです。病気などで働けなくなることも視野に入れて、堅実な生活設計を立てることが重要です。

まとめ

人生100年時代となった今、定年後も再雇用などで仕事を続けることはごく普通のこととなりました。ただし、再雇用後の待遇は、雇用形態や業務内容の変化により、給与が下がるケースが大半です。企業は世代交代を意識せざるを得ないので、ある程度やむを得ない側面はあるでしょう。

しかしながら、法改正や企業の意識改革などにより、不当な待遇差は解消されつつあります。高齢者も若い世代もそれぞれが能力を発揮して生き生きと働くことが、社会の活力につながります。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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