診断は結果ではなく、出発点

苦手なことに気づき、周囲に合わせることに注力していったことで、高校、大学は比較的うまく周囲と付き合えるようになったという。しかし、社会に出たときに仕事の優先順位がわからない、マルチタスクをこなせないなどの弊害が顕著になっていった。

「私は、約束やルールなど決まり事を守ること、集中力を持続させることが苦手。だからそれらを気を付けるために、高校で持たせてもらった携帯のタイマーを利用したり、約束の時間など大切なことは目に見える場所に複数のメモを貼り付けたりしました。それで学生時代はなんとかなっていたんです。

でも、仕事ではそうはいかなかった。仕事を時間通りにできないことが増えて、それで怒られるようになりました。上司にどれからすればいいか聞いて毎回言われた通りにしたら、それが正解のときもあれば不正解のときもあった。『状況を考えろ』と怒られても、言った通りにしただけなのに。その理不尽さにイライラすることもありました」

その頃にはインターネットは身近なものになっており、発達障害についても調べれば色んな情報を得ることができた。しかし、自分の特徴に当てはまることが多いことに気づいていたが、何年も病院に行くことができなかった。その間に職場でうまく立ち回ることができずにうつ症状が出てしまい、自主退職することに。家に引きこもる中でまた母親に怒りをぶつけてしまい、その中で発達障害の可能性があることを伝えてしまったという。

「それを聞いて、母親は私に謝ってきました。小さい頃から私が周囲と少し違うことに気づいていたものの、見ないふりをしてしまっていたと。母親も色々調べてくれていたみたいで、話し合って、一緒に病院に行き、心理検査やスクリーニングテストなどを受けた後に、診断が出ました」

診断結果を伝えられたときの医師からの言葉で救われたと麗子さんは振り返る。

「『診断は、自分の個性に気づいて、将来の選択肢を増やすことにつながります』と。これから家族と一緒にすることの話を先生がしたときに母親は『はい』と大きく頷いてくれました」

そこから勉強会や、当事者同士の集まりを経て、特性と向き合いながら、現在は両親と3人暮らしをしている。何も父親に対して意見が言えなかった母親は強くなり、父親から麗子さんをかばってくれるようになったという。

発達障害は、本人と周囲がその特性を受け入れるだけでも救われることがたくさんある。麗子さんの担当医師が言ったように「診断は結果ではなく、出発点」なのだ。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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