辛い人からは離れる。親でも同じ
そこから両親からの連絡に一切対応することなく、実家への帰省をやめる。しばらくすると姉の携帯から留守番電話が入っており、それは母親からだったという。
「両親の携帯番号や家電は着信拒否をしていたので、母親は姉の携帯を借りて電話してきたんです。姉の電話番号は拒否こそしていなかったものの、姉からも何か言われるのかもしれないと思って電話に出なかったら、留守電に母親の泣き声が入っていました」
母親からの留守電は連絡がとれないことを心配するものではなく、母親が思う“普通”を求めるものだった。
「途中までしか聞けなかったんですが、『普通に生きてほしい。普通に生きればその先に結婚がある』とのメッセージがありました。
そのときに、家族だからどこかでわかってくれるという期待を持ってしまっていたことに気づきました。その期待は、留守電に残るメッセージを聞いて完全になくすことができました」
香菜さんは現在も恋愛感情が芽生えた相手はおらず、一人で生活をしている。家族で唯一姉とは連絡を取り合っているが、祖父母の葬儀にも参加せずに完全に親との関係は切れているという。
「頼んではいないのですが、姉が親の様子を報告してくれています。間に入っている姉はいつか私と両親の仲が戻ることを期待しているのかもしれません。でも、それはありえない。分かり合えない人とは離れたほうが楽なんです。他人ならそうするように、親だからって苦しいのに一緒にいる必要はないと思います」
親が子どもに様々なことを求めるように、子どもも親になんでもできるという完璧を求めることが多い。しかし、親もひとりの人間である。無意識の期待を持てば持つほど、親子関係は複雑化するように思う。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。