文/鈴木拓也

写真はイメージです

定年退職した夫が、家で暇を持て余し、妻が外出しようとすると「俺も行く」と付いていく行動を揶揄した「濡れ落ち葉」。

この言葉が流行語大賞に選ばれてから、間もなく30年。この間に、定年を迎えた人たちのライフスタイルが劇的に変化したかといえば、そうでもなさそうだ。少なからぬ人は奥さんから「濡れ落ち葉」の扱いを受け(「粗大ゴミ」とまで言われる人も……)、自宅では居場所がないため、毎日図書館や公園で時間をつぶすことも。定年後の居場所づくりは、まったくもって他人ごとではない。

東京新聞社で政治記者として働く清水孝幸さんも、定年後の生活に不安を感じた一人だ。

30年以上、夜討ち朝駆けと絵に描いたような忙しい仕事人生を送り、たまの休日は「家でゴロゴロ」。地元に友人はいなかったという。

まだ50代前半の働き盛りのときに奥さんから「定年退職した後、毎日、家にいるのはやめてね」と釘を刺された。清水さんは、この厳しい一言をきっかけに「地域デビュー」を決意する。

仕事柄、初めての場所に物怖じしない性格なのか、清水さんの行動力はすごい。将棋サークルから始めて、カヤック、握りずし体験、ラテンダンスのサルサなど、地元(中央区勝どき)界隈の公民館などで開かれる集まりに矢継ぎ早に参加。

こうして、数年もしないうちに、定年後も暇を持て余しそうにないライフスタイルを築き上げる。

清水さんの地域活動の奮闘記は、東京新聞の人気の連載となり、それを加筆・修正して1冊にまとめたのが、『定年が楽しみになる! オヤジの地域デビュー』(東京新聞出版局)だ。

本書は、4章50話から構成され、一通り読むことで、どのような活動・学習の場があるのか、どうしたらその世界でなじむことができるか、およそ地域デビューに必要な事柄を把握することができる。以下、そのエッセンスを若干紹介しよう。

■初めの一歩でお勧めは趣味講座

ゼロからの初めの一歩として清水さんが勧めるのは、公民館で行われる趣味講座。料金は割安で、地域に知り合いがいなくても気軽に参加できるのが、魅力の理由だという。例えばこんな具合―

「私のお気に入りは料理教室だ。料理は得意ではないが、調理中は集中でき、みんなで試食するのが楽しい。

料理教室ではまず先生が実演しながら、調理方法を教えてくれる。その後、調理台に分かれ4、5人で実際につくってみる。共同作業なので、自信がなければ、洗い物や簡単なことをすればいい。

最近、料理教室にも男性が増えてきた。築地社会教育会館で「野菜スイーツ『ごぼうガトーショコラ』に参加したときのこと。お菓子づくりなのに、私の調理台は4人中3人が男性だった」(本書47~48pより引用)

男だからといって、スイーツやアロマの講座に出てはいけない法はない。時には、自分一人だけ男性ということもあるが、憶する必要はなさそうだ。清水さんは、女性が主体の講座にいくつも飛び込んで、交流の輪を広げている。

■アンチエイジングも地域で交流しながら

「アンチエイジング」なる言葉もすっかり市民権を得たが、アンチエイジングや健康づくりをキーワードにした地域講座は、シニアに人気だという。確かに、自室やフィットネスジムで黙々と筋トレに打ち込むのは、心理的にも継続するのが大変だ。その点、みんなでやる健康づくりは、続けやすく、人とのつながりもできる楽しみもある。

清水さんも、中央区シニアセンターで開かれた「中高年のための健康づくり講座」に参加。元柔道女子の日本チャンピオンのもとで、座学と実践に励む。

「講座は前半の1時間が講義。『年を取るのは止められないが、老化のスピードは遅くできる。元気に年を重ねましょう』。寝たきりにならないためには足腰の筋肉を使って衰えないようにし、認知症予防には脳を刺激するのが大事だと教えてもらった。(中略)
後半の1時間は、高齢者でもできるよう椅子に座ったままする運動。無理せずに筋力を鍛える動きや、手足で違った動きをする脳トレ運動を習った」(本書83~84pより引用)

53歳の清水さんは、講座の参加者では最年少。にもかかわらず、毎回筋肉痛に悩まされたことから、自分もほかの参加者と同じ中高年なのだと痛感する。そして、老後も元気に活動するには、体力の維持が不可欠だという気づきをも得る。

*  *  *

本書には公民館での体験ばかりでなく、地元の銭湯通い、マンション管理組合で防災訓練、国際交流サロンで外国人と一緒にもんじゃ焼き、区民マラソンなど、いやはや実に多彩な地域活動が登場する。その多くは、還暦を過ぎてなくとも参加できるものだ。定年後の居場所の確立も求めつつ、現役時代から余暇を楽しむという目的で、本書を参考に地域デビューされてはいかがだろうか?

【今日の定年後に良い1冊】
『定年が楽しみになる! オヤジの地域デビュー』

(清水孝幸著・佐藤正明絵、東京新聞出版局)

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は散歩で、関西の神社仏閣を巡り歩いたり、南国の海辺をひたすら散策するなど、方々に出没している。

 

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