文/鈴木拓也
総務省の最新の調査によれば、65~69歳で働く日本人の割合は50.8%と半数を超えた。
「まだまだ元気なので働きたい」という前向きな気持ちもある一方、「年金と貯金だけで老い先を暮らしていけるか」と、老後資金に不安を抱えている人も多いということなのだろう。
65歳といえば、企業の再雇用義務が終わり、年金も支給開始となる年齢。しかし、統計データは、その年になったら楽隠居したいと考える人は、年々減っていることを示している。
では、定年前のわれわれは、どう準備していけばいいのだろうか?
1つのやり方として「“半”個人事業主」をすすめるのは、中高年専門ライフデザインアドバイザーの木村勝さん。
「個人事業主」とは、個人で独立して事業をしている人のこと。フリーランスと同義で、この原稿を書いている筆者も、フリーライターという個人事業主だ。木村さんは、それに造語として「“半”」をつけた個人事業主こそ、「ベストな働き方」だと力説する。また、そのための道しるべとして、著書『老後のお金に困りたくなければ 今いる会社で「“半”個人事業主」になりなさい』(日本実業出版社)を上梓している。
今の職場で業務委託で働く
木村さんが唱える“半”個人事業主とは、現在の勤務先で、雇用は解消する代わりに業務委託契約を結んで、基本的にこれまでの仕事を続行するというもの。
雇用関係はなくなるので、立場としてはまぎれもなく個人事業主。しかし、退職してまったくゼロベースから取引先を開拓するような、リスキーな独立開業ではないのがポイントだ。そのタイミングとして、55歳の役職定年時、60歳の定年時、65歳の再雇用契約満了時など考えられるが、定年時が最適だとも。というのも、そこまでに5年間の準備期間が想定され、現役会社員として最後の数年を意識して活用する必要があるから。また、収入面でも、再雇用では減収するのがふつうであるなか、“半”個人事業主だと逆に増収を見込める点も、“半”個人事業主の魅力となる。
ほかにも“半”個人事業主のメリットは多い。木村さんは本書で、以下のように述べている。
個人事業主は労働者ではないので、就業規則は適用されません。厚生年金の被保険者にもならないので、収入に応じて年金が停止となる在職老齢年金の支給停止の適用もありません。契約により、フルタイムではなく週2~3日という働き方も選べます。兼業・副業禁止も適用外になるので、空いた時間を使ってほかの仕事をすることも可能です。また、雇用のように再雇用制限年齢もないので「働けるうちはいつまでも」働くことができます。(本書68pより)
一昔前まで、雇用以外の働き方は一般的とはいえなかったが、時代は変わった。“半”個人事業主として活動していくスタイルに「追い風が吹いて」いると木村さんは言う。
増えるリリーフマン型人材のニーズ
“半”個人事業主であっても、独立して会社から業務を請け負うからには、余人をもって代えがたいスキル・資格が必要では、という心配がある。確かにそうしたスペシャリスト型人材のニーズはあるが、くわえて増えてきたのが「リリーフマン型」の人材ニーズだという。
リリーフマン型の仕事は、人間関係はすでに確立されている職場で、すでに築いた実務能力をベースにしたもの。例えば、決算期の経理支援、営業やITのサポートがそれにあたり、「何でも屋」的なスタンスも立派なリリーフマン型の業務となる。
こうした業務への外部人材のニーズが増えている背景として、木村さんは近年の慢性的な人手不足を第一に挙げる。そして、育児休業の取得率増加も大きな要因になっているとも。育児休業した社員は、確実に復職してくるので、誰かを雇用して業務の穴を埋めるわけにはいかない。そこでリリーフマン型“半”個人事業主の出番となる。
社内の事情は熟知していますので、新規採用のように改めて社内制度、ルールを一から説明する必要はありません。また何十年間もの経験があるので社内人脈も豊富です。特に具体的な指示を受けなくても、超即戦力として育児休業者の穴埋め対応をすることができるのが、シニア“半”個人事業主です。(本書83pより)
「キャリアの棚卸」をしてその日に備える
いくらニーズがあるとは言っても、直前までいた会社で当然のように使ってもらえると考えるのは危ない。木村さんは、会社と対等な立場で契約を結ぶためにも、自分はどんなサービスを提供できるのか、明確にして磨き上げることをすすめる。
準備作業の1つとして木村さんが挙げるのは、「徹底的なキャリアの棚卸」だ、自分が培ってきたスキルやノウハウを、社外活動の実績や失敗事例も含めてピックアップしていく。そのなかで特に、「苦にならない」仕事に注目。そこには、「あなたの売りになる」ものが多いという。そこを起点に、細く長く続けられそうなマネタイズの方途を探っていく。
そうした上で準備期間中は、「すでに個人事業主として1年契約で今の会社と契約していると想定して仕事をする」ことの重要性が説かれる。この間は、依頼された仕事は期待値の150%の成果を心がけ、他人が嫌がる仕事を積極的に引き受けるなど、今の職場で役立つ人材であることを印象づける。木村さんは、次のようにも書いている。
役職定年でモラルを下げ、「早く定時にならないかな」などと無為に時間をすごしている暇はありません。“半”個人事業主としての将来戦略を目指すことを決めたら周囲から「働かないおじさん」のレッテルを貼られることは致命的です。(本書118~119pより)
そうした布石を敷いた上で、時宜を得たタイミングで業務委託契約を会社に打診する。無事に契約を結んでも、それで安住することなく、2社目以降のクライアント拡大もはかる。
現役時代だと、独立は「清水の舞台から飛び降りる」ようなものに見えても、60歳をすぎると、「自宅の2階ベランダから手すり付きの階段を使って1階に下りてくる」程度のものだと、木村さんは語る。定年後も元気に働きたい方、老後のお金の問題を払拭したい方は、“半”個人事業主を検討する価値はあるだろう。
【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『老後のお金に困りたくなければ 今いる会社で「“半”個人事業主」になりなさい』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。