画像はイメージです。

取材・文/坂口鈴香

「消防白書」(総務省消防庁・2021年)によると、建物火災の件数がもっとも多いのが12月、次いで2月、1月と、空気の乾燥する冬場に火災が多く発生していることがわかる。(出典 https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r3/data/63992.html)さらに、火災による死者は、65歳以上の高齢者が約7割を占めており、人口10万人あたりの死者数は、年齢が高くなるにしたがって急増している。なかでも81歳以上では、全年齢階層平均の約4倍にも上っているのだ。(出典 https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r3/chapter1/section1/para1/63779.html

先日発生した田中真紀子邸の火災のニュースは大きな関心を集めた。貴重な昭和の歴史を刻んだ家屋が全焼したことはもちろんだが、その原因が線香である可能性も示唆されたことから、家に仏壇があることの多い高齢者やその家族で不安を抱いた人は少なくないだろう。

火災原因は現在調査中とのことで、線香が原因として特定されたわけではない。とはいえ、線香が火災の原因になり得るのだろうか? そんな疑問を抱いた人もいるだろう。

線香は火災の原因になるのか

東京消防庁が発表したデータ(2018年)によれば、「灯明(ろうそく)、線香、提灯」による火災は、2013年から2017年まで、都内だけでも年間30件から46件発生している。そのうち、線香が発火源となった火災は、同様の期間で年間7件から16件発生しているのだ。ちなみに灯明が発火源となった火災は、年間18件から29件。そう考えると、線香が発火源となった火災が案外多い印象を受ける。(出典 https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/hp-kouhouka/pdf/300319.pdf

それを裏付ける実験がある。郡山地方広域消防組合が行ったもので、線香が700℃から800℃という高温で長時間燃え続けることがわかる。

千葉市消防局予防課の平野さんはこう指摘する。

「線香による火災は、ろうそくなどの裸火よりは起こりにくいとはいえ、線香もタバコの火種と同じように、高温で長時間熱を持っています。線香立てに立て、そこで燃え尽きるなら問題ありませんが、風が吹き込むなど何らかの原因で線香立てから外に倒れたりして、その火種が燃えやすいものの上に落下したりすると、そこから発火する可能性もあります。気をつけていても、毎日線香をあげていると、何百回のうちの1回が、何らかの原因で火災につながることがないとは言えません」

線香やろうそくによる火災を防ぐには

では、どんな対策を取ったらよいのだろうか。平野さんは、「火を使ったときは目を離さないこと」と注意を喚起する。「火をつけたまま放置して火災になってしまった場合、通報や初期消火が遅れて被害が拡大するおそれがあります。たとえ線香であっても、火災の原因になる可能性があると認識することが大切です」

前述の郡山地方広域消防組合が挙げている、ろうそくや線香による火災を防ぐための対策は次のようなものだ。

1 ろうそくや線香の近くに燃えやすいものを置かない。
2 ろうそくや線香へ火をつけるときは衣服などの可燃物へ燃え移らないように注意する。
3 ろうそくや線香等を捨てる場合、一度水につけて消えていることを十分確認してから捨てる。
4 ろうそくの使用中は、その場を離れない。その場を離れる時は、必ず消してから移動する。
5 香炉には、香炉灰をしっかり入れる。
6 ろうそくや線香の外箱等の注意書きをよく読み、正しく使用する。

線香が倒れるのを防ぐには、線香立てに立てるよりは寝かせた方が良いだろう。また仏壇用の防火・防炎マットを敷くのも対策のひとつとなる。

老人ホームなどの高齢者施設では、自室に仏壇を置く入居者は少なくないが、ろうそくや線香を使うことを禁止し、電池式など電気ろうそく、電気線香を使ってほしいとお願いしている。火を使わないでも、先祖を供養する心は伝わる。火事を出せば、供養どころではないのだから。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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