女性にはモテなくなった

友紀夫さんは現役時代、女性の影はなかった。妻と20年以上、家庭内別居をしていることは話していたので、てっきり特定の恋人がいるのかと思っていたら、そうではなかった。

「出世するなら、妻以外の女の影があっちゃだめなんだよ。男はモテる男の足を引っ張るから。部下と不倫なんて言語道断。自ら出世の道に穴をあけるような行為だよ。俺はけっこうモテたから、女性からの誘いを断るのが大変だった」

取引先の女性社員や、女性経営者、女性弁護士、ワイン会で知り合った女性医師や女性官僚などから誘われたという。ワンナイトは何度かあったが、2回目以降は相手のことを全く無視したという。

「俺の人脈や財産を狙われても困る。1回なら事故で済むけど、2回目以降はそうならない。それに、女性が俺を好きになっちゃうから、無視。でも、それもピタッとモテなくなったね。退職までは“いい鴨がフランスから届いたから、家に行っていい?”なんて女社長もいたけれど、今は何の連絡もない。うっとうしくなくていいけれど」

先日、友紀夫さんはひとりでヨーロッパを回ってきたという。名だたるホテルに泊まり、知り合いのワイン農家を訪ね、自分が投資しているオリーブ畑を巡る気ままな旅だ。しかし、まったく面白くなかったという。

「ひとりで行っても面白くないんだよね。前にヨーロッパに行ったのは、元配偶者とだった。あいつは冷徹な奴だったけど、ワインはやたら詳しかった。あんな奴でもいるだけマシだと思っただけだった」

現地の農家さんとは話は弾んだが、続かなかったという。友紀夫さんは相手との間に上下関係を作る。粗末な服を着ていたり、容姿が劣っていたりするだけで、その人は下に置かれる。おそらく、農家さんに対してもそのような態度を取ったのだろう。

「今後の人生は、こういう農場でワインを作るのもいいかな、と思ったんだ。それに、旨いワインだから、日本に持ってくれば売れると思う。そのことを話すと“もう決まっているからノーサンキューだ”と言われちゃったよ」

今後の人生について聞くと、「考え中」と即答した。

「ずっと働いてきたから、5年くらいのんびりして、それから考えようと思う。まだ、行っていない場所もたくさんあるしね。フェラーリとハーレーはガレージにあるけれど、やろうと思っていた水上バイクはまだ手付かず。そうそう、俺の成功体験って金になると思わない? 時が来たら、手伝わせてあげるよ」

友紀夫さんは有り余る資産の管理や、それを使うことで忙しいという。おそらく20年では使い切れないほどのお金がある。しかし、話を聞く限り、誰も愛さず、愛されないどころか、気にかけてくれる存在さえもないまま、長い人生を歩くことが半分決まっている。

友紀夫さんにとって、お金とは「人が羨むリッチな暮らしをするための引換券」だが、多くの人にとってお金は「目に見えない幸せを維持するための道具」だ。

友紀夫さんはフェラーリを所有しているが、別にその車が好きではないという。それなのに「車検に50万円かかったよ」と自慢していた。有り余るほどのお金を持ちながら、金に振り回されているのではないだろうか。そんな人生から、彼はいつ降りるのだろうか。そのときに、本当の幸せが見えてくるのではないかと感じてしまった。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。

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