母親が頼ってきたのはかわいい兄ではなく私

実家はローンを完済した分譲マンションで、かかる費用は共益費の月2万円ほど。老後は問題ないほどの貯えはあり、それを兄は頼りにしていたという。兄の前の離婚により発生した慰謝料200万円はもちろん両親に返済されていない。

「母親は『200万円はなんとかするから、相手の女性のことをちゃんとしなさい』と兄に言いました。私がいくら反対しても、母親の意思は固くて聞き入れてもらえなかったんです。

そこから兄、そして母親とはしばらく連絡を取らなくなりました。もう勝手にしてくれっていう諦めでしたね」

夏美さんは35歳になったときに夫と離婚。原因は相手の浮気だった。その後しばらくは1人暮らしをしていたが、40歳を目前にしたときに母親から連絡があり、そこから一緒に暮らすことを決意したという。

「緑内障で両目を手術することになったと言われたんです。片目ずつ手術を行うから完全に見えなくなる期間はないものの、入院期間が延びるとのことでした。なぜ兄に連絡しないのかと聞いたら、『地方で暮らしていて連絡は取ってない』と。『頼ってごめんなさい』と言われて、放っておけませんでした。

入院の前に私の離婚を初めて伝えたほど疎遠だったんですけど、そこで仲直りをして、今に至ります。母親には今後一切兄にお金は渡さないことを約束してもらいました」

「馬鹿な子ほど可愛い」という諺があるように、子どもがいくつになっても親子という関係が残り、親の愛情は行く先が心配な子どものほうに向くのかもしれない。しかし、いざ頼りにしたいときにはその馬鹿な子は自分のことでいっぱいいっぱいで何もしてくれないのはよくあること。子離れができなかった親の結末はイメージしたよりもシビアである。

取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。

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