文/鈴木拓也
空き家となった親の家をどうするか?
多くの中高年が直面しているか、いつか向き合うことになる問題だ。面倒に思えて先延ばしにしていても、いつかその時がやってくる。いざその時に準備が整っていなければ、多大な苦労を抱えることに……。
著述家の永峰英太郎さんも、「かなりの苦労や失敗」をした1人だ。 20歳で親元を離れて以来、親の家のことには無関心であったが、母が他界し、認知症の父が老人ホームに入ったことで、否応なくこの問題に取り組むことになった。
永峰さんは、誰も住まなくなった家を8年間維持したのち、最終的には売却。一件落着とはなったが、予備知識なく本番に臨んでしまったことを後悔しているという。そんな永峰さんが、自身の体験を詰め込んで不動産コンサルタント・高橋正典氏の監修のもと上梓したのが、『親の家を売る。維持から売却まで、この1冊で大丈夫!』(自由国民社)だ。今回は本書から、親の家を売るのに不可欠な知識の一端を紹介しよう。
早めに親の意向を聞いておく
永峰さんは、父親が老人ホームに入所した時点で、家を売ることを考えたという。しかし。親の意向を聞いていなかったので、売る行動には出られなかったそうだ。自己判断で売却してから、父親が「家に帰りたい」と言い出したら、言いわけが立たない。これが第一の教訓となる。つまり、
親が老後、どこで暮らしたいのか、必ず聞き出しておいてください。タイミングは、「親の定年前後」です。デリケートな話題だけに、老いが顕著になってしまうと切り出しにくくなってしまうからです。(本書12pより)
聞き方としては、元気なうちはどうしたいか、介護が必要になったらどうしてほしいか、二段階にわける。定年後はマンションを購入して終の住処にしたいといった、予想もしない返答があるかもしれない。現代は、老後の住処の選択肢は増えている。その点を確認することで、将来的に親の家をどうするか、方向性が見えてくる。
ご近所さんとのつながりを大切に
父親が老人ホームで暮らすことになり、家は空き家のまま、当面は維持することにした永峰さん。といっても、永峰さんの住まいからは遠く、頻繁に行き来できないという問題があった。
救われたのは「ご近所さん」の存在だ。郵便受けの確認、ゴミ捨て、水道管破裂時の処置などを手伝ってくれたのである。親が、普段からご近所さんと仲良くしていたのが大きかったという。それに甘えず、永峰さん自身もご近所さんと良好な関係を作るようにした。
親が元気なうちに、あるいは空き家になった段階で、挨拶するように心掛けてください。私は父が施設に入った段階で「親父が帰る可能性があるので、私たち子供が維持します。ご迷惑をおかけしてすみません」と、お土産を持って近隣をまわりました。
こうした心掛けが、ご近所さんのフォローを得られることにつながると断言できます。(本書56~57pより)
いうまでもなく、ご近所さん頼みにできることには限界がある。例えば家の中の換気。湿気がたまって、カビが生えやすくなるので、帰省のたびに玄関と窓を開け、換気扇を回して空気の入れ替えをする。屋外については、雑草の除去や敷地外に伸びた庭木の枝の剪定、冬期の水道の水抜きなど怠らないようにする。
大手の不動産会社だからいいとは限らない
永峰さんが、親の家を売ることを決断したのは、父親の死後、数年が経過したとき。「近隣に知らない人も増えてきて、いつまでも甘えてはいられない」という気持ちから、踏ん切りがついたそうだ。
ただ、家の売却にもコツがある。何か事情があって一刻も早く売りたい場合は別として、「1円でも高い収益」を目指したほうがいいと、永峰さんは説く。
売るタイミングの見極めとしては、「競合物件の有無」が重要になるという。
同じエリアに同じようなサイズの物件(土地)が出ていないときに売り出せば、高く売れる確率が高まります。SUUMOなど不動産情報サイトで、親の家の周囲の状況をチェックしましょう。その結果、供給過多であると判断したら、待つ選択を取ります。(本書122pより)
くわえて、転勤・入学などで住まいの需要が増える2~3月は、高値で売却できる可能性も高くなるという。
そして、家の売り出しは、不動産仲介業者に依頼することになるが、「大手」の業者がいいとは限らないそうだ。これは、一人の担当者が多くの物件を受け持っていて、「売りにくい物件」は後回しにしがちという事情がある。築年数が古い親の家だと、たいがいはそうした物件に当てはまってしまう。
また、何社かに打診して、その中で査定額が一番高い業者に任せるのも考えものだという。というのも、売れるはずのない高い査定額を最初に提示して、あとで「売れませんでした」と、値下げを持ちかけてくる業者が存在するからだ。
永峰さんは、「相場にあった査定を出す」ところが、業者選択の一つの鉄則だとアドバイスする。また、「トイレをリフォームすれば、売れます」といった、こちらが気づかない助言をしてくれる業者も好ポイント。担当者が親身に対応してくれるのであれば、大手か中小かという規模にこだわらず、売却を一任する候補として考えてよいそうだ。
本書では、他にも相続に関する家の登記方法や相続税対策、申告方法についても解説。親の家を売却する一連の流れがイメージできるだろう。
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かいつまんでの紹介となったが、親の家一軒を売るにしても、一筋縄ではいかないことがよくわかる。もしあなたが同じ問題に直面しているなら、本書は格好の手引きとなるだろう。
【今日の暮らしに役立つ1冊】
『親の家を売る。維持から売却まで、この1冊で大丈夫!』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。