文/鈴木拓也

親の死去に伴う遺産相続のトラブルは昔からあったが、近年目立っているのが、実家の相続にまつわるもの。


今の高齢者の8割以上に持ち家があり、核家族化などの要因が重なって、子ども同士が争うことが増えた―そう説くのは、『図解 実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!』の著者である、松原昌洙さん(株式会社中央プロパティー 代表取締役)。


これまで2500件以上のトラブルの解決をサポートしてきた松原さんは、相続の問題は富裕層に限らないと指摘。むしろ、「普通の家庭で当たり前に発生している」という。特に実家や土地という不動産は分けにくいため、不公平感が生じやすい。これに、長く疎遠になっていた兄弟姉妹間にあった感情のもつれが拍車をかける。

遺言書は効果のある対策の一つ


実家の相続問題を回避する秘策はあるのだろうか?

「絶対的な解決法はありません」と、松原さんは述べている。トラブルの中身もケースバイケースだからだ。
ただ、遺言書は有効な対策の一つだという。

特に、不動産は価値や権利・公平性が見えにくいので、遺言書で権利関係を明確にしておくことは、トラブル回避に大きな効果が期待できます。(本書26pより)

近年の法改正で、財産目録は(自筆でなく)パソコンで作成したものでも有効となったこと、法務局で保管できるシステムが整備されたことも後押しする。

しかし、最も大切なのは親族間のコミュニケーションや思いやりだとも。仲は悪くない円満といってよい家庭には、「意外とこれが欠けています」と、松原さんは注意を促す。日本では、「親の生前から死後の財産を語る風土」がないというのもあるが、ここは先憂後楽で、親子で話し合って財産の分配の方向性を決めておくことをすすめている。

共有財産のままにしておくリスク


見落とされがちだが、親の死去と同時に財産は法定相続人の「共有財産」となる。実家の土地・家屋も同様で、その名義は配偶者や子らの共有となる。登記をすれば誰の名義か確定できるが、その義務はないため名義を共有したままにしている人は多い。

そのことが、「確実にトラブルに発展していきます」と、松原さんは述べる。共有しておくことには売却時の税制メリットなどがあるものの、デメリットもある。例えば、誰かがリフォームや賃貸したいと思っても、ほかの共有者の事前同意が必要だというのが1点。子の誰かが、実家の1階を改装して小さなお店にしたいと思っても、他の反対があれば無理となる。そして、いがみ合いの火種になることも。

それ以上に問題になりやすいのが、親と同居していた独り身の共有者が、実家に住み続けている場合。

相続が発生した時点で、独り身の居住者は、家庭を持っている他の兄弟姉妹ともめやすくなります。他の共有者からすると「私たちは大変なのに、お前は独り身で親が身の回りの面倒をみてくれて、家賃も払わずに気楽に暮らしていた」という不満を抱くからです。(本書38pより)

一方で、住んでいる側からすれば、年老いた親の面倒を一番みていたのは自分だという自負があり、そのすれ違いがさらなる軋轢を生むリスクをはらむわけだ。

上述の理由から松原さんは、共有名義は「最終的には解消」するよう強くすすめている。

「解消」というのは、持分(権利を持つ割合)を売り買いするか、放棄することを意味する。例えば、長男、長女、次男の3人の共有者がいて(持分は各1/3)、長女が長男に自分の持分を売った場合、長男の持分は2/3となり、次男は1/3のまま、長女は共有名義から離脱することになる。

売る相手は、親族ではない第三者でもよいという。意外にもそうした持分を買い取る投資家や業者がいるそうで、適正な価格で売却が成立することもある(買い叩かれるリスクもあるそうだが)。なので、調べて見積もりをとるのもひとつの選択肢となりうる。

他方、持分の放棄という手もあり、「財産はいらないから、とにかくもめ事から手を引きたい」というときに検討の余地がある。「相続放棄」と違うのは、諦めるのは不動産の共有部分のみである点。他の相続財産には影響しない。

*  *  *

割愛したが本書には、借地権付き住宅の相続トラブルについても詳しく解説されており、実家の相続で悩むすべての人に役立つ充実した内容になっている。相続は、親が遺言書さえ書いていれば、それでOK…ではない。血のつながった者同士で遺恨を招かないためにも、こうした情報は、あらかじめ把握しておきたいものだ。

【今日の暮らしに役立つ1冊】

『図解 実家の相続、今からトラブルなく準備する方法を不動産相続のプロがやさしく解説します!』
松原昌洙著
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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)で配信している。

 

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