「私だけが、疎外されていた」
絶句している祐子さんに夫は「悪かったよ。でも彼女とは別れられない。僕も離婚しない。彼女も離婚しない。相手の旦那さんは僕と彼女のことを知っている。セカンドパートナーだから心配しないで」と言ったそう。
「関係を聞いたら、もう15年ですって。その前からも関係があったけれど、正式に付き合うようになったのは、そのくらいだって。しかも、彼女の存在を長女が知っていたこともびっくりしました。長女は都市開発関連の仕事をしており、彼女のことを尊敬しているのだとか」
「60歳で人生リセット」という話もよく聞くが、「セカンドパートナー」もよく聞く言葉だ。これは、配偶者以外の心身共に“ときめく”恋人のことを指す。このセカンドパートナーを求めて、今は「既婚者合コン」というサービスが花盛りだ。
「パパちゃんはもちろん、娘にも裏切られて、不倫なんて不潔な関係に溺れていて、本当にバカみたい。その日は、当てつけもあって都心のホテルに泊まったんですが、一人なんですよ。夜景を見ながら、“ここに美和さんたちと来たら、大騒ぎだろうな”と思いましたが、どうしようもないんです」
そうなると、気になるのは美和さんたちの動向だ。グループを出てしまったから知りようもないけれど、あの通知がうるさい日々が懐かしいのだそう。
「SNSでつながった新しいお友達もいるけれど、40代後半だと若いの。一緒に美術館に行っても、スタスタ歩くし、話も合わないし……持っている知識も考え方も違うから、私が“なんとかハラスメント”をしないか気にしなくちゃいけない。今思えば、なんで人間関係の断捨離なんてしちゃったんだろうと思います」
縁は自然に結ばれて、離れていくものだ。それを「私は自分の人生を充実させるために、余計な時間と人間関係を切ります」と宣言するのは少々不自然なのではないだろうか。
ここ数年、終活ブームで、人間関係に限らず、モノや思い出など、なんでも捨てまくる傾向が続いている。果たしてそれは健康的なのだろうか。
祐子さんは、美和さんたちグループを切ったことで、その他の友達からも距離を置かれているのを感じているという。
一度、切ってしまった人間関係が修復することはほとんどない。どちらかが遠慮してぎくしゃくしてしまうからだ。人生は思っている以上に長い。今目の前にあるものを、捨てる前によく考えなければならない。「覆水盆に返らずなんですよ」という祐子さんの姿から私たちが学ぶことは多いのだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。