食堂の仕込み、接客、家事、育児、介護を引き受ける嫁
麻子さんは東北地方の出身で、口数が少なく、忍耐強い印象があったという。
「キレイな顔立ちをしているんです。客商売をしているから明るい性格ではあるのですが、本音のところはわからない。ウチもお付き合いで麻子さんの食堂に何度も行きましたが、ご主人のご両親は、嫁いびりをしていたと思います。昔、『渡る世間は鬼ばかり』というドラマがあったじゃないですか。まさにあんな感じ」
嫁はその家の召使と言わんばかりに、無給同様にこき使う。店を手伝うのは「当たり前」で、できないと罵倒される。夫は両親に頭が上がらず、妻をかばうこともしない。
「学校のPTAの相談のときに、ウチの事務所が集まる場になっていたのですが、麻子さんはよく“早く帰らないと叱られる”といそいそと帰っていました」
麻子さんの義父が脳溢血で倒れてからは介護にも追われていたという。
「食堂の仕込み、接客、介護、家事、育児……麻子さんは自分を犠牲にしていた。何をするにも義両親にお伺いを立て、ご主人は思考停止しているために両親の言いなり」
なぜ、離婚をしないのかと聞いたことがあるという。すると帰ってきた返事は「行くところがないから」。麻子さんは施設育ちで、実家がなかった。食堂に嫁に来たのは、ある宗教の繋がりだったという。
「なるほどね……と思いました。それからウチでたまにお茶を飲むようになり、子供の中学校のPTAも一緒にやることに。高校は別になりましたが、月に1回はお茶をして、年に1回は私がお金を出して、日帰りのバス旅行にも行くようになったんです」
家に縛り付けられている麻子さんは、「こんなに楽しい世界があるなんて」と感動していたという。
「サクランボ狩りをして、温泉に入る程度ですよ。同じ年なのに、妹みたいに可愛くなっちゃって」
しかし、美しい麻子さんとバス旅行に行くと、男性客が色めき立つのには閉口したという。
「男の人って、好きな女性にはすぐにプレゼントをしてくる。麻子さんと行くと、ワインやお菓子などのお土産は買ったことがないんです。男性がくれるから。もしかすると、麻子さんの婚家が家に縛り付けていたのは、その美貌もあるからかもしれないですね」
【私が我慢しているのは、家が手に入るから……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。