タバコ以外は良い義母
そして、そのタバコがきっかけで明日香さん夫婦と同居することになる。夫から頭を下げられて明日香さんは了承するしかなかったという。
「義母は一番多かったときには1日に1.5箱ぐらい吸っていました。義父は自営業だったので寡婦年金の受給はすでに終わっており、生命保険の貯えも少なくなってきていた。義母は決して贅沢な暮らしをしているわけじゃなかったけれど、タバコの値上がりがあっても我慢することができないんです。そのとき70歳を超えていた義母にすでに働く意思はなく、その貯えと、義兄が少額でも援助すると言ってくれたこともあり、義母と同居するしかない状況でした。ここで拒否すると、私たち夫婦の離婚も見えてきてしまう。だから、了承するしかなかったんです。夫は義兄と違って、自分の母親の味方になるような気がしたから」
明日香さん夫婦は義母と同居するにあたり引っ越しをして、新居では義母の部屋だけの喫煙をお願いしていた。義母もその約束を守っていたが、散歩した公園などで吸うこともあり、近所では少し悪目立ちする存在に。コロナ禍からはさらに喫煙量が増えて、タバコの値上がりもあり、義母のタバコ代は家計を圧迫しているという。
「同居している期間だけでもタバコは1箱100円以上値上がりしています。タバコを吸う人が減少していることが原因なのか、よく銘柄がなくなったりもしているのですが、それにも振り回されて困っています。義母が吸っていたタバコの銘柄がなくなり、義母から『なくなってしまう前に買いだめしておいて』と自分にはまったく必要ないのにタバコ屋を何店もめぐることになります。同居期間だけで2回も。たくさんのカートンを抱えている状態の自分を見て、何をしているんだろうと思いますよ。
そのことを夫に伝えると、謝ってくれたり、『自分のお小遣いを減らしていいから』と申し訳なさそうに言ってくるから、かわいそうでそれ以上言えなくなります。義母もタバコ以外は良い人。だからこそ、その1つだけの趣味を奪うこともできない。子どもも義母に懐いているのですが、いっそ義母と子どもが疎遠になってくれれば喫煙の問題が1つ減るのにと思ってしまっています」
政府は、がん対策推進基本計画において「喫煙率の減少」を指標の1つとして設定しているが、全面禁止ではなく、「禁煙週間」などの取り組みで、望まない受動喫煙のない社会を目指しているという。明日香さんは、家計を圧迫しているタバコ代のことよりも、子どもの受動喫煙を懸念している。「禁煙をお願いしたいけれど、できてはいない」という遠慮が義家族という関係性から来るものであれば、解決は難しいだろう。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。