仮想通貨への投資話に10万円
離婚してからは仕事もとんとん拍子に決まり、親の介護に忙しく「ランチ会」から足が遠のいたのは前出の通り。しかし、それ以外にも理由はあった。
「投資の話ばかりをするからです。アフリカで金の鉱山が発見されたのでその投資をしないかと言われました。ほかにも、ある島の砂の浄化作用が素晴らしくその利権への投資、ノーベル賞を受賞した科学者がからむがん関連の薬開発の投資など、いろんな話がありました」
さすがにそれは詐欺ではないかと感じたという。しかし、由加里さんが熱っぽく語るとホントにそうなのだと思ってしまった。
「さすがに金鉱山や新薬は“怪しい”と思いますが、仮想通貨の話は乗ってしまいました。元本保証をしてくれるし、1年後には月利5%の高利回りを約束してくれました。しかも10万円からでいいというので、お金を出したのです」
当然、10万円は戻らない。出資法によると、元本を保証して資金を集めることは、銀行などの金融機関に限定されている。また、詐欺的な金融商品は高利回りを提示する傾向がある。一般的な投資の利回り(年1~7%)を提示しても注目度が低いため、高利回りで勧誘するのだ。
加えて、少額投資ができるのも特徴だ。「元本保証で低リスクだから、お試し的に……」と出資したお金なら、訴訟に発展しにくく「勉強料だ」と諦めもつく。
「私にとってはなけなしの10万円だったのですが、由加里に謝られると何も言えなくなってしまう。それから、いろんな誘いが来ましたが、断るようにしています」
コロナ禍の間は、「コロナで会えない」といえばよかったが、それもやりにくくなっている。
「最近は、30代後半のイケメンのユーチューバーに入れあげて、その人とともに動画を配信しているんです。TikTokも始めて、別人のようになってしまいました。私にも“投資はしなくてもいいから、動画を再生して”と言われて」
そして、友情にピリオドを打ったのは、由加里さんが仲間内で共有している営業マニュアルが誤送されてきたこと。
「そこには、“不安な人、バカな人を誘うこと。何度も言えば必ず来る”などが書かれていました。“金がないと言われたら、借金をさせよう。返すお金より配当の方が大きいから、借金はすぐ返済できる”、“出資をさせろ“とありました」
秀子さんは由加里さんに「お金を借りればいいじゃない?」と何度も言われていたといいます。その誤爆LINEは、すぐに消されていたそう。
「やはり、私はカモだったんですよ。それが切なくて」
2023年2月8日、ウソの投資話で全国3000人以上から200億円以上を騙し取ったとみられる、投資コンサルティング会社の社長ら8人が逮捕された。彼らは知人の紹介や異業種交流会などを通じ、投資の知識がなく、不安を抱える20代~30代の若者中心に出資者を募る。一口100万円で、投資金は「海外法人がFXや暗号試算などで運用」、「海外国債などで保全運用する」とうたっていたという。しかし、実際には、容疑者ら国内の無人島やクルーズ船購入などの遊興費に使用していた。
秀子さんと由加里さんのように、友情に付け込む詐欺や勧誘も多い。核家族化で孤独が進む現代社会、さみしさと不安につけこんだ詐欺はこれからも増えるのではないだろうか。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。