文/鈴木拓也

人生の一大目標は「100歳まで働きたい」

人材紹介会社であるCEAFOM(シーフォーム)の社長、郡山史郎さんの朝は早い。
起床は午前4時頃。食器皿の片付けや朝食などのルーティンを済ませて、6時に家を出る。誰もいない会社に到着するのは7時過ぎ。7時半には仕事に取りかかるという。
若いベンチャー企業家のような働きぶりだが、郡山さんは今年88歳の米寿を迎えるシニアだ。

人生の大きな目標は「100歳まで働きたい」という郡山さんだが、類稀な遺伝的素質の持ち主で、体力・気力旺盛なご長寿というわけでもない。
むしろ、日に日に衰えゆく自分の現実を実感しているという。

そんな郡山さんが、リタイアに向かわないのは、「会社に行くのが一番の健康法」で、なおかつ「生まれてはじめて働く幸せというものを噛みしめている」からだ。
郡山さんは、昨年刊行された著書『87歳ビジネスマン。いまが一番働き盛り』(青春出版社)の中で、次のようにも語る。

「できない」ことが増えていく現実を受け入れてこそ、「できる」ことを大事にしはじめる。自分の能力の限界を思い知りながら、それでも「できる」ことを大切にし、日々の達成感を得ていく。
私はそれを、仕事を続けることで学んだ。決まった時間に家を出て、会社に無事たどり着いただけで「やったぜ!」と思う。そんな感覚は、若い頃にはなかった(本書29~30pより)

仕事人生の後半戦は競争から抜ける

郡山さんは、若い頃よりも年齢を経た今の方が、働く幸せを感じている理由をいくつか挙げる。

その1つが、仕事人生の「前半戦」(定年前)と「後半戦」(定年後)という考えだ。「前半戦」は、いわば競争と勝負の世界。競合他社や社内のライバルを相手に戦い続けることが宿命づけられている。仮に短期的には勝ったにしても、「次は負けるかもしれない」というプレッシャーは続く。勝つためには、意にそまぬ業務に取り組む必要もあるだろう。とにかく前半戦はストレスに満ちている。
それが後半戦になると様相は一変する。郡山さんは、次のように解説する。

だが後半戦は、勝者もいない代わりに敗者もいない。全員が幸せになれる可能性がある。全員が勝者と言ってもいいだろう。
そこで必要になるのは、競争に勝つことではなく、共存共栄であり、助け合いの精神である。(本書82pより)

それゆえ郡山さんは、定年退職したら楽隠居をと考えている元気な人たちに「働け」と発破をかける。悠々自適で無為に余生を過ごすよりも、生きがいや挑みがいのある世界がそこにあるからだ。

シニアの求職は「何でもやります」を口癖に

先年、政府は70歳定年制を努力義務として打ち出した。
郡山さんは、これには否定的だ。むしろ「百害あって一利なし」と一刀両断する。
雇う側の視点からすれば、70歳まで働いてほしい社員はごくわずか。その余裕があるなら、「変化を受け入れる柔軟性とデジタルテクノロジーの適性」がある若手社員を増やした方がいいと発想する。

するとどうなるか?

定年前の希望退職者を募り、シニアになるずっと手前で「追い出し」てしまう方向へとインセンティブが働いてしまう。

また、ミドルエイジ世代の雇われる側の意識の低さも指摘する。

会社を定年退職するまでのキャリアプランはあっても、退職したあとの数十年の人生についてはノープラン。私のように「〇〇さんを雇う会社なんて、どこにもありませんよ」と門前払いされようとは思いもしていない。「少しくらい収入が減ってもいいから、何か自分の経験を生かせる職に就こう」、そう甘く考えている。定年後の現実を、何も知らないのだ。(本書40pより)

郡山さんがここで述べている「定年後の現実」とは、ずばり当事者たちが想定しているような求人は、ほとんどないということだ。郡山さん自身も、ソニーPCLの社長を退き、65歳を過ぎた頃から再就職活動を始めたが、定年前の輝かしい実績を引っさげても、どこも雇ってくれないという現実に愕然とする。

それからおよそ20年経った今でも、現状はさして変わらない。
ただし、求人そのものはある。選り好みしないという条件はつくが……。

郡山さんは、「高齢者の仕事が見当たらないのは、理想の仕事を選ぼうとするから、でしかない」と説き、あえて「できる仕事」をすすめる。

「できる仕事」というのは、「やりたい仕事」でなく、能力的にはこなせる仕事のこと。「何でもやります」を口癖に、どんな仕事でもやってみる気概が必要となる。いや、むしろその気概さえあれば、ほかには何も要らないと言うべきか。郡山さんは本書で次のようにも言っている。

どんな仕事でも、やってみれば面白くなることもあるし、ひどい目に遭ったら遭ったで、こんなにいい社会勉強はない(本書120pより)

本当にひどい目に遭って腐る日々もあるかもしれないが、そこは我慢。ある意味、やり直しがきくのが人生の後半戦なのだから、試行錯誤はしてもいい。そうしたトンネルをくぐり抜けた先に「会社員時代とは違う、働く幸せが拓けている」と、郡山さんは太鼓判を押す。定年後の生き方・働き方に不安をいだいている方に、ぜひ読んでほしい1冊だ。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『87歳ビジネスマン。いまが一番働き盛り』

郡山史郎著
青春出版社

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。

 

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