彼女への想いが断ち切れず、思い出の写真もしばらく捨てることができなかった

白くて小さな整理棚は妻のものだ。

「何気なく開けただけなんです。子供時代の通知表やらペンやら雑多なものが入っていて、『へぇ~』という感じで見ていって。そしたら、2段目の引き出しから女性が写っている写真が5枚、出てきちゃって……」

高橋さんは小さな声で続けた。

「結婚前に付き合っていた彼女の写真です、僕の。もう随分昔のことなんですけど」

高橋さんは以前、大手コンサルタント会社に勤務するサラリーマンとして、中国、インドネシア、フィリピン、韓国などへ頻繁に出張に出かけていた。

アジア地区に販路を拡げたい日本企業と、日本企業とつながりたいアジアの企業をつなぐのが、高橋さんの仕事だったからだ。そのときの経験や人脈が、独立後の仕事のベースにもなっている。

20~30代前半にかけて高橋さんの仕事をサポートしていたのが、写真に写っていた女性Aさんだ。

Aさんは親の仕事の都合で小学生のときから北京で暮らしていた日本人。日本の外語大学を卒業し、語学に堪能だったこともあり、数か国の現場で同席してもらったが、とても頼りになる存在だったという。

いつしかふたりは惹かれ合い、東京と北京の遠距離恋愛を続けていたという。

ところが、高橋さんが40歳を目前に独立を決め、Aさんにプロポーズしたところ、返事はNOだった。

「もちろんショックでしたよ。まさか断られるとは思っていなかったので。彼女に言わせれば、僕と結婚できない理由はいろいろあったようです」

その理由はともかく、高橋さんは彼女への想いが断ち切れず、思い出の写真もしばらく捨てることができないまま会社のデスクにしまっていた。そして、退社した際に身のまわりのものと一緒に持ち帰ったそうだ。

高橋さんが現在の妻と結婚したのはその2年後。8歳年下の妻とは、やはり仕事を通じて出会った。

独身生活が長かった者同士の結婚とあって、生活用品が多かったため、結婚を機に家電品やインテリアは一新することとし、互いにどうしても捨てられないものだけを最小限の家具に入れて持ち寄り、納戸に収納することにしたそうだ。

高橋さんは事務用キャビネットを、妻は白い小さな整理棚を持ち込んだ。

この妻の整理棚からくだんの写真が出てきたとき、高橋さんは絶句したそうだ。

【何のために持っているのか、破り捨てるべきなのか、 その2に続きます】

取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。

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