取材・文/大津恭子
定年退職を間近に控えた世代、リタイア後の新生活を始めた世代の夫婦が直面する、環境や生活リズムの変化。ライフスタイルが変わると、どんな問題が起こるのか。また、夫婦の距離感やバランスをどのように保ち、過ごしているのかを語ってもらいます。
[お話を伺った人]
長岡重樹さん(仮名・63歳) ファンドマネジャーとして再就職した投資信託会社を定年退職。今年の夏、離婚調停の末に離婚し、生まれ故郷で父親と生活している。
妻が定年離婚を考えていることを知り、自分も同じ思いだと気付いた
「この年になって独り身になると、何かと不便ですよ。でも、子供達も所帯をもったことだし、親としての役割は果たしたという自負はあります。不便と不遇を天秤にかけたら、選ぶべき道が自然に見えたという感じですね」
長岡重樹さん(仮名、以下長岡さん)は、定年退職をした翌日に、元妻Aさん(59歳)に離婚話を切り出した。
Aさんは「はあ?」と言ったきり、しばらく固まっていたそうだ。
「まさか私から言い出されるとは思っていなかったでしょうから、驚いていましたよ。でも、どのみち時間の問題だったと思います。私たちは、何十年も前から仮面夫婦。一緒に暮らして家族をやっていたけど、死ぬまで夫婦でいる気なんて、向こうにもなかったはず。実際、私が定年を迎えたら離婚する、と豪語していたみたいですし」
Aさんが定年離婚計画を立てているらしい、という話は、じつは娘から聞いていた。
「娘は数年前から、『リタイア後のことをふたりで話し合ってほしい』と言っていました。『早く手を打たないと、お母さんの選択肢には離婚もあるみたいだよ』とも。長年の夫婦の不仲は子供達も気付いていたでしょう。娘や息子には悪いことをしたと思います。でも、娘にそう言われたら、離婚という選択肢があったのか! とむしろ晴れやかな気持ちになったんです。定年後に夫婦で仲良く暮らすイメージは、私の中にはなかった。どうにもこうにも、そういうイメージが膨らまないとわかったとき、モヤモヤしたまま死にたくない! と強く思ったんです」
長岡さんは、すっきりした気持ちで老後を迎えるためには早く別れたほうが互いのためだと思い、退職した翌日に自分から離婚を提案した。
「その後は金の話だけでした。『慰謝料はいくらもらえるんだ』とか『その後の生活費を保証しろ』とか『あんたが死んだときの相続分を先に渡せ』とか。結局、これまでだって、私は生活費を入れるだけの存在だったってことがよくわかりましたよ」
【教育熱心な妻は、子供に対しても感情をむき出しにすることがあった。次ページに続きます】