女性は妻しか知らない……
義雄さんはつかみどころがない人だ。容姿は整っており、シンプルでいいものを身に着けていて、それがよく似合う。
「これは妻が選んでくれたもの。センスがいいのかもしれない。僕はあまりいろんなことに興味がないんだよね。ちょっと前に“アダルトチルドレン”って話題になったじゃない。妻が言うには、ぼくはどうもそれらしいんだ。でも占いとか心理とかって、正直に言えば不確かなことでしょ。それにつけこむ詐欺もあるわけだし、カルト教団だって少なくないじゃない」
妻との出会いのきっかけを聞くと、しばらく迷ったうえで、ナンパだといった。
「葉山の一色海岸の海水浴に大学の仲間と行ったとき、妻と出会った。同じ年齢でね。別の男が狙っていたんだけど、妻は真面目そうな僕にしたんだそうだ。僕は妻としか付き合ったことがないし、別の人と付き合う気持ちもない。別にそれでよかった」
交際は8年間。つかず離れずだったが、「結婚相手はもっと別の人がいる」と思っていたこともあってなかなか踏み切れなかったという。
「やっぱり、妻の学歴がネックだったというか……。周囲の奴らは同級生とか、国立大学を出た才媛とかと結婚していたのも影響していたかもしれない。やはり彼らの子供も優秀で私立のいい学校に入っているからね。僕はまあまあ頭はよかったけれど、あまり人からは好かれなかった。勤め上げた会社も、雇用延長になることがなく、ひとり部長でお払い箱。コロナだったから送別会もなかった」
妻と過ごそうと思った矢先の離婚届け。暴力を振るったわけでも、借金をしたわけでもない。そのきっかけは、犬だった。
「緊急事態宣言中に、外出用に犬を飼った。これは妻の願いでね。ペットショップで買えばいいのに、近所の獣医のところに行って、保護犬を探したんだ。そのためにわざわざ四国の方まで行くんだよ。それでトイプードルをもらってきて飼い始めた。ブリーダーが夜逃げしたとかでガリガリに痩せていて、満足に散歩することもできなかったんだけれど、妻と僕が面倒を見るうちに、みるみる元気になっていき、半年もすると元気に走り回るようになった。それから妻の散歩が長くなり、1月には外泊も増えて、2月半ばに離婚することになった」
【ペットの犬を飼ったことで、なぜ離婚になったのか……。~その2~に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。