取材・文/沢木文

結婚当初は他人だった。しかし、25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、死や離婚など、妻と突然の別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。

お話を伺った、光男さん(仮名・62歳・会社役員)の7歳年下の妻に異変があったのは1年前。外出の回数が増え、帰宅が遅くなったことで、探偵に素行調査を依頼。見知らぬ男性と笑顔で歩く妻がいた。

夫の食事の用意をしなくなった妻

「それまでも社交的な人で、外出はよくしていたんだけれど、遅くても19時には帰ってきていた。1年くらい前から、22時、24時と徐々に遅くなっていった。それまでは、何があっても僕の夕飯を用意していたのに、それもなくなった」

朝・昼・夜の食事は、なるべく妻の作ったものを食べたい、と続ける光男さん。

「それは妻として母として当たり前のことだと思う。ウチの息子たちは3人とも有名な国立大学に行っているんだけれど、それは妻が毎日、食事の支度をして、いい加減なものを食べさせなかったからだと思う。誤解されては困るんだけど、妻に食事の支度を強制していたわけではない。それに、妻にも都合があることもわかっているから、友達とのランチや外食など自由に行かせてあげていたよ」

妻は結婚30年間、専業主婦をしていた。32歳の光男さんが、当時勤務していた会社の近くのフルーツパーラーで働いていた妻を見初めたのだ。

「妻は短大卒業後、千葉県内にある信用金庫に就職するも1年で辞めて上京。その後、いろんな仕事をして、あるアーティストのファンクラブを運営する会社に落ち着いた。出会った頃は、そのアーティストの人気に陰りが見えて、給料も出勤時間も減らされた。そこでフルーツパーラーで働き始めて2か月目に僕と出会ったんです」

当時25歳の妻は美しく、華やかだった。

「僕の周囲にいた女性は、自分で稼いでるというプライドがあり、自立している人が多かった。でも、妻は食べたいものや欲しいものを僕にねだってきた。それがとても新鮮で楽しかった。僕は小金を持っていたから、好きな女にお金を使うのが楽しく、ますます好きになってしまった」

光男さんは東京都北区で生まれ育つ。名門都立高校から、有名な私立大学に進学。卒業後、証券会社に勤務するも、バブル経済が終わる直前に会社をスパッと辞める。営業マネージャーをしていた経験で、人材マネージメント会社を起業。その後、会社を買収しながら拡大していく。

一代で財を成し、家族に不自由させない生活をさせてきた。次ページに続きます】

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