インスタに上がる高級寿司やワイン、プレゼントのジュエリー
娘を有名大学に入れた香織さんは、明かに解放された様子だったという。娘の合格がわかると、別人のように美しくなっていった。
「筋トレで体を絞って、おしゃれをして、どこかに出かけていく後姿を地元の駅で見ました。香織さんに連絡をして、“合格のお祝い会をしようよ”と誘うと、その日はダメ、あの日もダメと言われて、やっと会っても上の空なんです」
待ち合わせ場所はいつもの駅前のコーヒーチェーン。ブレンドコーヒー1杯250円で、2時間程度は話すのに、その日は30分程度で切り上げられた。
「たった2か月で別人のようにきれいになった香織さんは、筋トレと糖質制限で10キロも瘦せたという。しきりにスマホを見ていて、画面を見るとInstagramだったんです。“私もインスタをやっている。ここでも繋がろうよ”というと、“恥ずかしいわよ”と断られてしまったんです。でも、チラ見したアカウント名を検索すると、明かに香織さんの投稿でした」
それはダイエット記を中心にした、恋愛の記録だった。茨城県の花畑をバッグに写っている彼氏とツーショットの写真もあり、度肝を抜かれるほど驚いた。
「アカウントは1年以上前に作られており、まほちゃん(娘)の受験のサポートと合格、元ダンナさんとゴージャスなホテルで一緒に合格を祝う写真もあり、私が知る香織さんとは別人でした」
SNSは「人に自慢したいところだけ」を加工してアップするという側面もある。ひたすら刺繍の作品を上げる郁子さんの使い方と、香織さんの使い方は全く別だ。
「香織さんと彼は、マッチングアプリで出会っており、2人で沖縄の高級ホテルでインフィニティプールに入ったり、高級すし店でお寿司とワインを楽しんだりしている。まほちゃんという娘がいるのに、男と遊んでいるなんて信じられないと思いました」
一時期毎日、香織さんのインスタを見ては、夫にその感想を伝えていたという。
「パパから、“もうそんなものは見るなよ”と言われたんですけれど、止められない。前は香織さんの方から誘って来ていたのに、何の連絡もしてくれなくなりました」
自分と同じように、経済的に苦しいと思っていた女友達・香織さんがSNSに上げる豪華な生活。裏切られたという思いと、嫉妬が郁子さんを包んでいく。
「香織さんの投稿を見ると、具合が悪くなるのにやめられないんです。会って何かを言ってやりたいのですが、その言葉も見つからない。そうしているうちに、香織さんは実家を引き払うという。きっと彼氏と住むんでしょうね。ひとりで取り残されたような気分です」
こういう時に、実際に会わなければ憎悪や嫉妬の感情はやがて消えていく。「間が遠なりゃ契りが薄い」とはよく言ったものだ。しかしSNSは加工した真実を見て、感情を増幅する装置だ。
郁子さんが香織さんのアカウントを見続けるたびに、心はダメージを受け続ける。その「やめどき」を見極めることもひとつの「社交術」の一環なのではないだろうか。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。