パートが終わり、いつもの店で待っていたのは
信子さんの高校時代からの友人は、涼子さんと由美さんとの3人チームだという。
「みんな今はパート勤務。夕方になると夕飯を作りに帰らなくちゃならないから、話せるのは1~2時間。由美だけ娘がいるのだけれど、高校を卒業したら、すぐに東京に行ってしまった。その後、どれだけ“帰って結婚しなさい”と言っても、東京に行ったきり。コロナ前までは元旦だけ帰ってきて、逃げるように東京に行くといっていました」
地方に若い女性が少なくなっている事実は、マーケッターの三浦展氏が『都心集中の真実──東京23区町丁別人口から見える問題』(ちくま新書)を発表した2018年頃から注目されている。三浦氏は、都市とジェンダーの関係を20年以上考察し続けている論客でもある。
信子さんと友人は、「ウチの息子、もうすぐ40歳になるのに嫁のなり手がいない」とこぼしている。
「自治体のお見合いパーティなどもあるし、マッチングアプリもあるのだから頑張ってほしいのだけれど、アニメだアイドルだってそっちの活動が面白いみたい。男同士で旅行に行っているのよ。主人は“放っておけ”というけれど、そうもできないじゃない? だいたい、あの人は、自分が父親だって自覚がないの。いつもムスッとしていて、子供に興味がないの」
信子さんは夫に対して不満を抱えている。夫は家事も育児も妻に丸投げ。妻は無料のハウスキーパーであり、介護ヘルパーのように扱うタイプのようだ。
「まあ、それでもお勤めをさせてもらっていたから感謝をしないとね。結婚したら専業主婦になれ、と言うご主人は多いのよ。それでも主人は許してくれた。でも“俺のメシが作れないのに仕事か”などとイヤミを言われたり、作ったみそ汁がまずいと、これ見よがしに捨てられたこともあったっけ」
3年前に定年退職した信子さんの仕事内容を聞くと、営業補佐だった。同期入社の男たちは管理職になっていくのに、女性は内勤で肩書はないままだ。
「入ってから定年まで営業補佐。高卒の女子は最後まで経費は認められなかったな。男子には交通費の名目でお客さんのところにいくガソリン代なども出ているのに、私達にはない。いまでもそうなんじゃないかな。高卒の営業成績は、みんな大卒に持っていかれるしね。でも、いい会社で信用もある。社員はみんないい人だから、不満もなかったの」
とはいえ扱い方に差別があれば、不満は鬱積するだろう。そんなことをしゃべって発散していた女友達との会が様相を変えたのは、熟年離婚した純子さんが地元に戻ってきてからだ。
「純子は町一番の美人で、高校卒業後、東京に出た。お医者さんと結婚して、セレブな奥さんをしていたの。でもご主人が今でいうモラハラだったのよね。息子さんの結婚を機に、離婚してこっちに戻ってきたの。純子とは小学校から高校まで同じだったんだけれど、女王様タイプで私は好きじゃなかった。由美は娘が東京にいるから、ときどき純子に会っていたみたい。由美が誘っておしゃべり会に来るようになったんだけれど、私たちの話を聞きだしては“離婚して自立しなよ”と言うのがうるさいし、面倒なのよ」
【嫁として生きてきた私に、「自分の人生を生きろ」と言われても……その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)、『沼にはまる人々』(ポプラ社)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)などにも寄稿している。