恐怖で支配され、何も言えない
何か不満があっても感情的にならずに伝えればわかってくれる。寛子さんの心にはまだ夫への愛情が残っていた。しかし、夫は笑顔で皮肉のような発言を繰り返すようになってしまった。
「体が辛くてご飯を作れなかったことを謝りながら買い物をお願いしたら、『寝ているのが仕事だもんね』とか、『お腹にあるもので言い訳できるもんね』と私をバカにするように笑いながら言ってくるようになりました。
それでも、子どもが産まれたらまた前のような優しい夫に戻ってくれると信じていたんです」
双方の親と疎遠だったため、里帰り出産や別の場所での出産はかなわず、寛子さんを見下す発言を繰り返す夫の側で10か月を乗り切り、女の子を無事出産。
すぐに「子どもが産まれたら……」という願いはかなわなかったことがわかる。
「モラハラはエスカレートしました。子どもの夜泣きで夫のイラつきもピークになったのか、ケンカするしないに関わらず、歩いているときに邪魔だと思ったものを見境なく蹴るようになったのです。育児用品もお構いなしに、邪魔だと思ったら蹴ってきます。前に授乳クッションを蹴って、それが私に当たったことがあるんですが、私が恐怖から泣いてしまったら『痛くないくせに、オーバーだわ』と笑われました。
頼るところがなく、私一人では子どもを育てられないので、今も一緒にいます。もうケンカする気力もありません。パートですが復職したのは離婚した後の生活費を貯めるためでしたが、お金も管理されていますから。発言さえ我慢すれば、生活はできるのでこのまま続けていくしかないのかもしれません」
寛子さんの夫は子どもに対して無関心で、夫婦が親にされてきたことを今子どもにしてしまっているという。
小さい頃に愛情不足で育った人はコミュニケーションがうまくできないことが多い。夫は外ではうまく取り繕っているようだがその無理がストレスになり、家庭で発散しているように映った。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。