不登校になっても、何もできなかった
上の娘は暴飲暴食を繰り返し、体重も増加。いじめられているなどの実態や訴えもないまま、学校に行かなくなった。
健一さんは「もう声をかけるタイミングさえわからない」という。
「あんなに繰り返していた洗顔も止めて、『どうせ私なんて可愛くない』と言いながらご飯やお菓子を食べ続けていました。食事の時間など顔を合わせるタイミングで私が話しかけても無視です。目も合わせてくれなくなりました。
それに、下の娘ともまったく会話がないようなのです。私の前でだけ2人は話していないと思っていたら、見ていない場所でもそうでした。下もいつからか“お姉ちゃん”と口にすることはなくなりました」
健一さんは妻と何度も上の娘について話し合ったというが、具体的な解決法は見つからず。結局中学校は半分ほどしか通わずに卒業。高校は一時通信制に通うも続かなかった。
「上の娘は母親にも似ていないのです。実の母親なのに、母親に対してもコンプレックスを訴え、何か話しても『私の気持ちなんてわからない』と言い続けるそうです」
現在、上の娘は19歳に。今は家で生活を続けながら、週に2~3度のアルバイトをしている。
健一さんはふと考えると、お金だけ持って帰って来て子どもに構わなかった「自分の父親とそっくりだ」と自分のことを語る。
「今話しかけたら上の娘はどんな反応をしてくれるのか、想像もできません。それくらい、私は娘と会話していないんです。不登校のときも、高校をやめたときもです。下の娘は現在10歳なのですが、普通に会話できています。では、この付き合いの難しさは連れ子ということなのか、それとも関係ないのか、わかりません」
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人は良くも悪くも、自分が気にしていることは他人も同じくらいに気にしているという思い込みを持ってしまうことがある。これを「スポットライト効果」という。本来、他人はそこまで気にはしていないのにも関わらず、である。
容姿コンプレックスを持つ子どもの場合は、本人が負の部分を訴えたときには親や周囲が「気づかなかった」などと言いながらそのコンプレックスを理解してあげるという態度が大切となる。健一さんのように“似ていない”事実から気を遣い過ぎてしまうと、本人が安心して訴える場は作れない。一緒にいた12年間の間で子どもが安心できる場、本当の信頼関係を作れなかったことが今回の問題だったのかもしれない。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。