銀座一丁目裏路地には、知る人ぞ知るビルがある。その名は奥野ビル。竣工は1932年(昭和7年)。東京大空襲とバブル経済の地価狂乱や再開発ブームを逃れた建物だ。手動式エレベーターが今なお稼働するこのビルの403号室に「スーツを愛する紳士淑女」のためのサロンがある。この連載ではその、仕立て屋のオーナー・大西慎哉が“おしゃれとスタイルの愉しみ”を紹介していく。

今回のテーマは新英国王・チャールズ3世(以下・チャールズ国王)即位でブーム! 押さえておきたい「チャールズパッチ」の基礎知識。

ファッションの祭典・ピッティが2年ぶりに盛り上がる!

2023年は男性のドレススタイル(スーツスタイル)が注目されています。それは、コロナ禍でオンライン化されていた、政治や経済にまつわる公式会議が再開されたこともあります。公式の場で、代表たちはスーツを身にまといますから注目度は高まるというもの。

また、2023年1月11~13日には、「ピッティ・イマージネ・ウオモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」が開催。海外からの来場客をほぼ規制なく入れ、大いに盛り上がりました。このイタリアのフィレンツエで行われるメンズファッションの最大の見本市は、現地の状況を見る限り、スーツ&ジャケットスタイルの人が例年より多いようにも感じています。

カジュアル傾向が強かった時代に、スーツ&ジャケットスタイルという伝統的な装いが注目を集めたきっかけは、チャールズ3世が新国王になったことでしょう。

2022年9月8日エリザベス2世女王陛下が96歳で崩御され、その伝統と文化国葬が全世界に放映されました。王室の人々や参列する英国要人の軍服、来賓たちのフォーマルスタイル……深い悲しみがその凛々しい美しさを一層際立てたように思うのは私だけではないはずです。

特にチャールズ国王の端正なモーニングコート姿は、ため息がでるほどでした。

チャールズ国王発のトレンド「チャールズパッチ」とは

エリザベス2世女王陛下崩御の同日にチャールズ国王は即位しました。

ここでは、その装いについて解説していきます。ずばり、一言で表現すると「サスティナブル(持続可能)」。

チャールズ国王は皇太子時代から、メンズスタイルのひとつの規範となり続けており、「プリンス・オブ・サステイナビリティー」と呼ばれていました。

60年代から環境問題に真摯に取り組み続けており、服装も基本的に変えません。チャールズ国王は、「これ」と決めたら、大切に守り、使い続ける方なのです。

よく知られているのが、1987年からお召しになっているスーツ。これは、英国の代表的なテーラー『アンダーソン&シェパード』(1906創業)で仕立てたものなのですが、チャールズ国王は破れた部分に継ぎあてし、現在も愛用しています。

この継ぎあてスタイルを「チャールズパッチ」と呼び、わざとパッチをつけているようなデザインにした新品も登場しています。

今、その姿勢が「カッコいい」とされ、究極のサスティナブルの体現としても注目を集めています。SDGsが注目される何十年も前からそのスタイルを続けてきた国王に、時代が追いついたのかもしれません。

当然、英国のトップであり、スタイルリーダーですから、チャールズ国王が即位してから、スーツ界では、袖や襟が擦り切れたシャツを仕込むことが、トレンドのひとつになっています。日本では「着古した」とも表現されるこれらのシャツは、着続けてきたからこそやわらかく体になじみ、心地いいのです。

袖が擦り切れたシャツをあえて着る。これがチャールズ国王発のトレンド。サスティナビリティを重んじる時代にも合っている。

ただし、この時に大切なのは、清潔に洗いプレスをして美しく着ること。そうすれば清潔感もありますし、服と着る人の間の信頼関係やリスペクトさえも生まれます。

もし、そんなスタイルに興味があれば、今年、あなたの体に合ったシャツを仕立ててみてはいかがでしょう。このシャツを頻繁に、そして大切に着て、体になじませていくのです。早ければ1年ほどで、あなたの体になじむシャツに仕上がっているはずですよ。

そして、もう1つの提案があります。それは、あなたが若い頃に仕立てたスーツ。着ないままタンスの肥やしにするうちに、体型が変わってしまい、捨てるに捨てられないという1着を持っている人も多いでしょう。

それなら、このサスティナブルな潮流に乗り、それも復活させてみてください。注文服というのは長く着るために縫い代を多くとっています。通常ならば、ウエストなら±6cmほどはお直し可能ですし、身幅を広げることもできます。

80~90年代に仕立てられたスーツには、上質なウールなどを使ったものが多く、今の技術にはない美しいシルエットも多々あります。

ヴィンテージウエアには2つの考え方があります。

1つは、実用品として考え自分が着やすくその時代の流行に合わせてどんどんサイズやシルエットを直して長く着る方法。

2つ目は、工芸品芸術品と考えその服そのもののシルエットをそのまま保存する方法。その場合は時代感が出てしまいますので流行おくれすぎる雰囲気またはコスプレ的になってしまいがちです。そこを堂々と着こなすか、コーディネイトで現代の雰囲気を作るか……いずれも高度なファッションテクニックが必要です。

私は、どちらも正解と思っています。

余談ですが、チャールズ国王は環境保護活動「キャンペーン フォー ウール」(Campaign for Wool)の後援もしています。現在、衣料品の中でウールが使われているのはたった1.3%。化学繊維は60%です。土に還る素材・ウールの仕様を促進するのがこの活動の目的です。やがて土になる素材は、人にも優しい。ウール素材の服を身にまとうこともSDGsにつながるのではないかと考えています。

英国羊毛公社(British Wool Marketing Board)の日本公式サイトによると、英国には60種類以上の羊が生息、その種類は世界一だという。また英国産ウールは、その上質さから「ウールの女王」と称えられている。

【靴もツギハギ!? 職人技が産むチャールズパッチの奥深き世界……次のページに続きます】

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