教育熱心な妻は、子供に対しても感情をむき出しにすることがあった

じつは、長岡さんはこれまでも何度か、Aさんとは先々まで一緒に暮らしていけないかもしれない、と思ったことがあった。

「長女が小さい頃、よく『お父さんみたいになっちゃうよ』と言って叱っていましてね。まともに取り合うほどのことでもないので、聞き流していたんです。実際、娘は私によく似たところがあるんです。そのうち、長男が生まれて、姉弟喧嘩の途中で、娘が『お父さんみたいになりたいの!?』と言っているのを見たとき、愕然としたんです。憎々しげな言い方がAそっくりで、このままでは大変なことになると思って、娘を叱りました」

もともと長岡さんは多弁なほうではない。普段大きな声を上げない父親が本気で怒った姿を見たためか、それ以来、父親を馬鹿にすることはいっさいなくなったという。

子供達の教育やしつけに関しては、専業主婦であるAさんに任せきりだった。

「習い事も受験校選びも、だいたい事後報告でした。あとからダメだと言ったことは……ないかもしれないですね。そもそも私の意見を聞くような雰囲気は皆無でした。妻に何か言おうものなら、10倍返しになるだけ。それが面倒で、波風を立てないよう、極力主張しないようにしてきました。それが良くなかったのかもしれません」

Aさんは教育熱心なあまり、子供に対しても感情をむき出しにすることがあったそうだ。

「息子が塾をサボった夜、息子を叱りつけていたんですよ。でも、思春期の男の子がまともに母親と話すわけないじゃないですか。ドアを閉めて自分の部屋から出てこないわけです。私が『近所迷惑だろう』と間に入った途端、彼女がブチ切れましてね、置いてあった花瓶をドアに投げつけたんですよ。息子も驚いていましたが、猫も驚いて逃げて行きましたよ(笑)」

そんな感情的な妻との生活も、子供が成長すれば収まるものだろう、と淡い期待を抱いていたが、その後、長岡さんの心を一気に冷やす事態が起きてしまった。

年老いた親への心ない発言だ。

~その2~に続きます。】

取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。

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