幸せと思える家族にやっとたどり着いた
離婚後は子どもが小さいこともあり、物心がつくまでは写真などを定期的に送るという間接的な面会交流を行っていた。しかし、写真で父性が芽生えなかったのか、夫は再婚したという報告の後に連絡が取れなくなり、それっきりだという。
養育費もそこからなくなったが、縁が切れてスッキリしたと晴香さんは語る。
「貯えは決して多くできないけれど、子どもと2人で暮らしていくことはできていました。養育費は子どもの権利だというけれど、子どもに会いたいと言わないまま音信不通になった父親なんていないほうがマシです。
それにそのとき私はまだ27歳。ずっと過去に囚われているなんてまっぴらだと思いました」
そこから晴香さんは結婚相談所に登録。6歳上の現夫と出会い、結婚に至った。子どもが小さい頃に再婚していることもあり、子どもは現在の夫を本当の父親だと思っている。
結婚の決め手は、相手の両親が高齢になったときには老人ホーム入所を予定していると言ってくれたから。
「最初の結婚は若かったから同居とか一切何も話し合わないままに結婚してしまったけれど、ちゃんと話し合わなければならないことなんだって学びましたから。
再婚したのは息子が3歳の時で、そこからずっと夫のことをお父さんと呼んでいます。物心がついてから初めて一緒に暮らした男性は今の夫だけですから、別に父親がいるとは知らないと思います。子どもへの告知は高校生ぐらい、またはもう少し先かなと夫婦では話し合っています。パスポートの申請などを行なえば気づいてしまうだろうし、その前には私たちの言葉でちゃんと伝えたいなって。
懐いてくれていて、実の父親と思っていることがよりショックを与えてしまうのか、ショックに愛情が勝ってくれるのか、わかりません。でも、3人で楽しく暮らしている日常の思い出は息子の中で残ってくれていると信じています」
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子どもに養子であることを伝えることを「真実告知」という。
最近では、養子の場合には早くから子どもに対して真実告知を行うことの重要性を説く意見が増えつつある。また、真実告知を遅らせれば遅らせただけ関係は悪化してしまうという、ソースの不確かな情報が独り歩きしているようにも感じる。
しかし、家族にはそれぞれのかたちがあり、一概にいつまでにという基準に縛られる必要はない。晴香さん夫婦のように、夫婦でしっかりとそのことを話し合い、タイミングを決めようとしているのであれば、それが一番正しいタイミングなのだろう。
真実告知がいつであれ、大切なのは「大切な子ども」だということ、そして「望んで育てている」ということをしっかりと伝えることなのだから。
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。