生活に追われる私と、輝く親友

晶子さんとは5年間、連絡を取らなかった。絶交状態になっていたのだ。美樹さんのわだかまりが解けた今年、同級生から「ねえ、晶子が高校にウォータークーラー5台を寄付したんだって」とニュースが入って来た。

美樹さんは今、お金に困っている。コロナ禍で勤務先の病院が赤字になり、給料を減らされた。夫のギャンブル癖、子供達の学費など、のどから手が出るほどお金が欲しいという。

「ウチの病院は、コロナ患者を受け入れなかったんです。スタッフみんなが大反対しましたからね。今思えば、受け入れればよかった。こんな状態になるとは思わなかったじゃないですか。隣町の病院はPCR検査を積極的に行い、コロナ外来を設け、入院患者も受け入れたから大儲け。看護師に100万のボーナスが出て、院長は2000万円する高級外車を買い、家も建て直していましたから」

コロナ禍以降、閉鎖的であるほどに、困窮していくという傾向はある。

「娘はこっちの短大を卒業し、トリマーになると言い出して、24歳なのにまだ学生なんです。21歳の息子はまだ地元の国立大学に通っているし。通学が車だからガソリン代が大変。理系だからアルバイトもできません。困っていても、子供の好きにさせてあげるのが親の役目じゃないですか。学費だなんだと毎月50万近く出ていくのに、収入が追い付かないんです」

転職するにもその先もない。地元密着型の病院で、9時~17時で働いてきた美樹さんは、今さら夜勤がある総合病院では体力的にも働けない。

「これからどうしよう」と思っていたころ、晶子さんが母校にウォータークーラーを寄付したのだ。

「みんな、晶子の会社を検索しますよね。すると、埼玉県で製造業をやっていることがわかったんです。友達は“東京じゃないんだ、たいしたことない”と言っていましたけれど」

高校のときは、美樹さんのほうがはるかに成績はよかったという。どこに差があったのだろうかと聞くと、「晶子のほうが美人だから。キレイな子のほうが有利」と言った。

しかし、実際に社会に出ると、そこまで甘くはない。二人の決定的な差は、「家族のために自己犠牲を払って当然」と「女なんだから〇〇すべきだ」という固定概念があるかないかではないだろうか。

美樹さんは「お金がなくても、家族がいるから幸せ。晶子は天涯孤独でかわいそう」と言う。価値観は人によって異なって当然だ。ただ、その価値観が格差を生み出すこともある。人生100年時代と言われるほど、これから先は長く、美樹さんの人生は折り返し地点に立っている。これから自分の人生をどう生きるかを、俯瞰して考えることも大切なのではないだろうか。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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