こんな母親に育てられている娘は、絶対に結婚できない
先日、真美さんは玲子さんに呼び出された。玲子さんは常々「娘が結婚しない」と嘆いており、その相談かと思ったという。
「今の子って、結婚する子はサッサとしちゃう。玲子は“娘にいい人いない?”と常々言っていましたからね。やはりウチがうらやましいみたいです。長男(28歳)のお嫁ちゃんは留学時代の同級生ですし、次男(25歳)にも高校(進学校)時代から付き合っている彼女がいて来年結婚。社内恋愛のリスクが高い今、学生時代に相手を見つけないとその先が大変みたいですね」
真美さんは玲子さんと待ち合わせのカフェに、意気揚々と行った。その前日、次男が彼女とともに遊びに来て、結婚、不妊治療、子育て、老後までの堅実な人生の計画表を見せくれたことも誇らしかった。
しかし、カフェに行くと、40代後半と思しき見知らぬ男性と玲子さんが親密な雰囲気でコーヒーを飲んでいた。
「あ、これは男女の関係になっていると思いました。相手はかなりのイケメンでおしゃれ。黒ブチメガネでツーブロックのヘアスタイルがアーティスト風で、私のタイプなんです。思わずドキッとしちゃいました。玲子は“早かったね”と言い、男性に“またね~”と言ったんです。席を立った男性からは、爽やかな香水の香りがして、左手の薬指には指輪が光っていたんです」
驚く真美さんに対して、「彼、私のことが好きなんだって」と言った。
「そこから恋愛のよさを滔々と語り始めたのです。そして私に対して、もっと人生を楽しまなくてはとか、女として終わっていると熟年離婚されるよ、などと言ってくるんです。もともと若々しく美しい玲子はますますキラキラしていて楽しそうでしたね。一方、私は仕事と家庭の維持だけをしている地味なオバサン。もちろん、十分すぎるほど幸せですが、“なんだかな~”と思いました。呆れたのは男性を行きつけのバーや飲み屋でひっかけていたこと。こんな母親に育てられている娘は、絶対に結婚できないと思いました。そういう爛れた雰囲気は家に充満しますから。玲子の娘は独立せずパラサイトですしね。それからは玲子を見る目が変わりました」
真美さんはインタビューの最後に「私はマウンティングなどしないと思っていたのに、この30年間、玲子に対してマウントしまくっていた自分と向き合うのがつらかった」と語っていた。
お互いに55歳、若く美しいことが女性の価値だと思っている玲子さんは、人生最後の恋だと意識しているだろう。真美さんは真逆の価値観だ。20~30代の独身時代とは異なり、40~50代の恋愛はモラルや価値観、心の奥底の願望にも関わって来る。自分も意識していない欲望のパンドラの箱が、恋愛によって開くこともあるのだ。
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。