101歳のいまも活躍する現役の日本最高齢ピアニスト、室井摩耶子さん。自分らしく、幸せに生きるコツは、「わたしという『個』、わたしの『心とからだ』の声に従ってきたから」だと言います。そんなマヤコさんの生きる指針をご紹介します。「人生100年時代」と言われるいま、将来の暮らしに漠然とした不安を持っている方のヒントになるはずです。
文/室井摩耶子
「なぜ?」「どうして?」の好奇心が年老いてからの日々を楽しくする
リハビリでは、理学療法士さんと歩行訓練に励みました。
「さあ、大腿部の外側の筋肉を動かしてください」
「下腹を押さえて膝を曲げ伸ばし10回」
もちろんうまくいきません。なかなか思うように動いてくれない筋肉に、神経を振り分けながら、その歩くという複雑な仕組みに、なかば感心したりしました。
そのとき、思ったのです。
「筋肉って、どういう仕組みで動くんだろう?」
「わたしって、どうやって歩いているんだろう?」
次の日からは、理学療法士さんを質問攻めです。なぜ筋肉は動くのか。どんなメカニズムになっているのか。ピアノと腕の筋肉の関係も教えてもらい、「骨折して良かったわ」と思ったほどです。だって、そうでもなければ、筋肉について考えたり学んだりする機会は、なかったでしょうから。
不思議なもので、そう考えるとリハビリも入院生活も楽しいものになります。手押し車をのろのろと押しながら、すたすたと歩く人たちの足元をじっと眺めては、「ほう」と感心し、「なるほど、ああやって筋肉を使っていたのか」と反芻しました。人間が歩く複雑な仕組み、筋肉の働きに、「人間という生き物はなんと素晴らしいのだろう」と嬉しくなったりもしました。
周囲の大人を質問攻めに
振り返ってみると、わたしは「なぜ?」「どうして?」が口癖だったようです。
ピアノを始めた6歳のころは、
「どうして短調は悲しい曲ばかりなの?」
「短調で嬉しい曲を作ってはいけないの?」
と先生に質問を浴びせてばかりいました。
ピアノに限らず、興味をひくことは片っ端から「なぜ?」「どうして?」と周囲を質問攻めにしていました。
30歳を過ぎて、ドイツに留学することになるのですが、それも「なぜ?」「どうして?」が収まらなかったからでしょう。本場のドイツなら、自分の疑問を解消してくれるかもしれないと思ったのです。
つまり、わたしを動かしていたのは、「なぜ?」「どうして?」という言葉だったというわけね。
いまでも、自分の知らないことには、好奇心が尽きません。生命の神秘のこと、宇宙のこと。だって宇宙なんて、九割以上は正体不明の未知の物質とエネルギーでできているんですって。そんなことを聞いてしまったら、「なぜ?」「どうして?」となりませんか? こうした些細でも楽しい「疑問」を発見していくと、俄然、年老いてからの日々
も楽しくなっていくのです。
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『マヤコ一〇一歳 元気な心とからだを保つコツ』(室井摩耶子 著)
小学館
室井摩耶子(むろい・まやこ)
大正10年4月18日、東京生まれ。6歳でピアノを始める。東京音楽学校(現・東京藝術大学)を首席で卒業後、同校 研究科を修了。昭和20年1月に日本交響楽団(NHK交 響楽団の前身)演奏会でソリストとしてデビュー。昭和30年、映画『ここに泉あり』にピアニスト役(実名)で出演。昭和31年にモーツァルト「生誕200年記念祭」に日本代表としてウィーン(オーストリア)へ派遣され、同年、第1回ド イツ政府給費留学生としてベルリン音楽大学(ドイツ)に留学。以後、海外を拠点に13カ国でリサイタルを開催、ドイツで「世界150人のピアニスト」に選ばれる。59歳のとき、演奏拠点を日本に移す。CDに『ハイドンは面白い!』など。平成24年、新日鉄音楽賞特別賞を受賞。平成30年度文化庁長官表彰。令和3年、名誉都民に選定される。101歳のいまも活躍する現役の日本最高齢ピアニスト。