取材・文/坂口鈴香

三浦道明さん(仮名・40)は、小学生のときに母の千鶴子さん(仮名・74)がベーチェット病を発症し、以来祖母の兼子さん(仮名)と二人三脚で千鶴子さんの介護をしてきた。いわゆる「ヤングケアラー(介護を担う子ども)」だ。千鶴子さんは長引く不調からウツになり、認知症のような症状も起こしていたので、学生時代から友達とゆっくり遊んだ記憶はない。だが、兼子さんや家族同様に三浦さんを受け入れてくれた同級生家族のおかげで、なぜ自分だけ母の介護をしなければならないのか、不満を抱いたこともつらい思いをしたこともないと言う。ただ専門学校を出たあと、介護に専念するために就職をあきらめたことだけは、悔しかったと振り返る。

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介護に専念して10年。就活をはじめた

専門学校を出たあと、介護のために就職はせず母千鶴子さんの介護に専念して10年。三浦さんは就職活動をはじめた。

「父の定年が近づいていました。退職する父に代わって、私が働く必要が出てきたんです」

30歳近くになっての就活は、比較的スムーズに進んだ。専門学校時代、美術館でワークショップの手伝いをしたことがあり、そこで知り合った人がデザイン事務所を紹介してくれたのだ。アルバイトだったが、そこで再び縁がつながった。

「アルバイト中、これからどうするのかという話になりました。事務所に出入りしていたカメラマンの方が私を気に入ってくれて、アルバイトが終わるころ、別のデザイン事務所を紹介してくれたんです」

こうして、三浦さんは父親の定年退職とほぼ同時期に正社員として就職が決まった。事務所の社長の母親が認知症で、介護の大変さを身を持って知っていたため、三浦さんの介護経験を評価してくれたのだという。

三浦さんは30歳になっていた。

「就職氷河期で、介護に専念していたので職歴もない。正社員として就職することは半分あきらめていました。正社員になれたのは、本当にラッキーとしか言えません」

兼子さんや友人、その家族、そしてデザイン事務所の人たち……人の縁に助けられてきたと三浦さんはしみじみ思う。

「がんばっていれば、助けてくれる人はいるんだなと思います」

父と介護をバトンタッチ

就職した三浦さんは、実家を出て一人暮らしをはじめた。父親が退職して、千鶴子さんの介護ができるようになったからだ。

「家族全員が母の介護でつぶれてしまわないよう、私がここでしっかり自立して経済力をつけようと思いました。祖母も元気だったので、それまでの生活に少し変化がほしいと思ったというのも、正直なところです」

実家を出たあとも、三浦さんは週末に実家に食事を持って行ったり、千鶴子さんの様子を見に行ったりするようにしていた。薬の飲み方なども確認した。病気知らずだった兼子さんも、80歳を過ぎてさすがに足腰が弱っていたが、家事はやってくれていたという。

そんな生活を続け、さらに数年。三浦さんは結婚した。このころになると、千鶴子さんは排泄の失敗も多くなっていた。

「トイレに間に合わなかったり、ベランダで排泄したりするようになりました。今は相性の良い医師と出会ったので、トイレの失敗が少なくなるよう、薬の調整を相談しているところです」

千鶴子さんは不安を訴えることが多くなり、頻繁に三浦さんに電話をかけてくる。

「眠れていないのか、早朝に電話してくるのがちょっとつらいです。出勤前に『今日は雨が降りそう』とか、『早く起きなさい』とか……」

幸いベーチェット病は寛解しており、千鶴子さんの日課は週1回デイサービスに通うくらいだ。

「以前、週2回通うようにしたのですが、母がイヤがって。70歳過ぎているのに、『周りはおじいさんおばあさんばかりだからイヤだ』って。自分は若いと思っているようです。たまにショッピングモールなどに連れて行くこともありますが、すぐにいなくなってしまって、目が離せません。家からも抜け出してしまいます」

そして昨年、何十年も娘家族のためにがんばってきてくれた兼子さんが亡くなった。

「脳卒中でした。倒れる前まで家事もしてくれていて、まさにピンピンコロリだったと思います」

三浦さんは長年の恩返しのつもりで、兼子さんの葬儀の喪主を務めた。兼子さんには感謝してもしきれないと言う。

今は千鶴子さんを父親が一人で見ている。

「父は、母がかわいそうだから、家で見てやりたいと言っています。そういう父も70代後半。母を施設に入れることも視野に入れないといけないね、と祖母の法事のときに親戚と話したところです」

三浦さんが千鶴子さんを引き取って介護することも考えないわけではない。

「でもそうすると、自宅で仕事をしている妻の負担になるでしょう。それだと皆が疲れてしまう。せいぜい週末だけ父に代わって母の介護をするくらいが精いっぱいです。人生のほとんどを病気と生きている母にはかわいそうですが、もうしばらくは今の状態でいるしかないのかなと思っています」

介護を担っていた子どもは大人になった。父親による老老介護がこの先どうなっていくのかはわからないが、三浦さんのことだからきっと乗り越えられるに違いない。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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