文/川村隆枝

要介護者にとって楽園にもなり得る介護施設ですが、そのタイプはさまざま。何を基準に選べばいいのか。要介護者の状態もあれば、経済的なこともあるでしょう。

そこで、施設長からのアドバイスとして、介護保険サービスで利用できる四種類の公的施設を紹介しましょう。それぞれに違いはありますが、要介護者がどのような状況でも、この四種類のどこかに入所できると思います。

(1)特別養護老人ホーム(通称・特養)

初期費用がかからず、月額費用が10~15万円前後と比較的低額なので、待機している入所希望者が非常に多い介護施設です。そのため入所までに数年かかることもあります。

入所は先着順ではなく、要介護度以外に家族状況なども考慮されるほか、緊急度の高い方が優先されます。基本的に、最期まで面倒を見てもらえるので、本人や家族は安心です。

入所の基準は要介護度三以上。食事・入浴・排泄の介助などの介護サービスを受けることができ、重度の認知症でも受け入れています。

ただ、看護師の夜間配置が義務づけられていないので、医療ケアを常時必要とする場合は対応が難しく、入所できないケースもあります。

(2)介護老人保健施設(通称・老健)

医療法人や社会福祉法人などが運営する公的介護施設です。病院と自宅の中間的な位置づけだと考えれば、分かりやすいと思います。

自宅で生活するのが難しい要介護度一以上の方を対象に、自宅に帰ることを目指す施設です。そのため介護よりも医療サービスが充実しています。医師と看護師が常駐するほか、薬剤師、リハビリテーション専門の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士も配置されているので安心です。

老健の入所期間は原則三カ月。この間に自宅復帰の観点から、特に排泄の自立を重視しておむつを外すためのリハビリが重点的に行われます。そのほかのリハビリ内容は施設によって異なりますが、効果を見ながら三カ月毎に自宅復帰できるかどうかが判定されます。

比較的症状の軽い人も受け入れる施設ですが、現状は入所者の七割が、要介護度三~五の人たち。そのため、多くはリハビリを受けても自力で生活できるまでは回復できず、数年間入所している例もあります。

また、リハビリ期間を終えて自宅に戻っても家族が介護できない場合、別の老健に入所しているケースも少なくないそうです。費用は特養と同様に初期費用は不要。月額料金のみで10~15万円程度です。

(3)介護療養型医療施設

主に医療法人が運営する介護施設です。

特養や老健に比べて要介護度が高い人、医療や介護の必要性が高い人を対象に受け入れています。

医療機関なので洗濯や買い物などの生活援助系のサービスやレクリエーションはあまり充実していません。ただ、痰の吸引や酸素吸入、導尿カテーテル、経管栄養など専門性の高い医療ケアに関しては万全の体制を整えています。

費用は、こちらも初期費用はなく月額9~17万円前後ですが、多くは病院が併設されているので、要介護度の高い人や寝たきりの人に適した施設といえるでしょう。

(4)介護医療院 ※新制度

廃止予定である介護療養型医療施設の入所者の転居先として、2018年4月に創設された施設です。2024年までには移行が完了するといわれています。

介護医療院の目的は、要介護状態の高齢者に対して医療・介護・住まいの場を提供することです。

I型とII型の二つに分けられ、I型は重い病気や認知症を発症している方の受け入れ施設、II型は心身状態が比較的安定している方を受け入れる施設になっています。

介護医療院は、診察室や機能訓練室、処置室などの設置が義務づけられているので、要介護度の高い入所者のサポートも可能です。この施設も初期費用は不要で、月額7.6~13万円で所できます。

* * *

私が勤務する老健たきざわは、介護老人保健施設です。

通常の介護保険施設の機能に加えて、慢性的な症状の療養を行う施設で、医療や看護が必要な方々を中心に、痰の吸引や栄養管理、褥瘡(じょくそう・床ずれ)の医療措置が必要な方も利用でき、手厚いケアを行っています。
またターミナルケア(終末医療)や看取りにも対応でき、リハビリも実施している施設です。

介護施設の利用を考えている人は、低所得者を対象に居住費や食費の自己負担分を軽減する特定入所者介護サービス費という制度も知っておいて損はないでしょう。

制度の利用対象者は、本人および同一世帯ではない配偶者の住民税が非課税で、配偶者がいない場合は本人の預貯金が1000万円以下、配偶者がいる場合は本人と配偶者の預貯金が合計2000万円以下の条件を満たしていることが条件になります。

費用がどれぐらい減免されるかは、申請する市区町村が認定する負担限度額認定によって決まります。担当のケアマネージャー、あるいは地域包括支援センターなどに連絡して確認したほうがいいでしょう。

老健たきざわの新米施設長になって私はこれらのことを知り、改めて介護保険料を納付することの大切さが分かりました。

同時に、生活保護受給者または世帯全員が住民税非課税の老年福祉年金受給者など、低所得者にも手厚い保障制度があることに感心しています。

川村隆枝/1949年、島根県出雲市生まれ。東京女子医科大学卒。同医大産婦人科医局入局。1974年に夫の郷里の岩手医科大学麻酔学教室入局、同医大付属循環器医療センター麻酔科助教授。2005年(独法)国立病院機構仙台医療センター麻酔科部長。2019年5月より、岩手県滝沢市にある「老人介護保険施設 老健たきざわ」施設長に就任。

『70歳の新人施設長が見た 介護施設で本当にあったとても素敵な話』
川村 隆枝 著
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