文/印南敦史

「孤独」という単語を辞書で引いてみれば、「周囲に頼れる相手がない」「心の通じ合う人がいない」「さびしい」などと書かれていることに気づくだろう。端的にいえば、あまりよくないイメージがあることは否定しようがないわけだ。

「コロナ禍をきっかけに、日本では老若男女を問わず孤独な人が増えている」などという話を聞くと、なおさらそうした思いは強くなっていくかもしれない。

しかし、日本の幸福学の第一人者である『幸せな孤独』(前野隆司 著、アスコム)の著者は、多くの議論が「孤独は不幸」という前提に立っていること自体に疑問を投げかけている。

私の周囲には、孤独でありながら幸せそうな人もいます。
幸福学の最新の研究でも、孤独=不幸と単純に決められないことがわかってきました。パートナーがいなくても、付き合いが苦手でも、友人に恵まれていなくても、幸せな人はいます。(本書「少し長めの『はじめに』」より)

理屈としては、たしかにそうなのかもしれない。だが、もしもそうであるなら気になるのは、どうすれば「幸せな孤独」が実現できるのかということだ。著者によれば、それを実現している人々には3つの共通する傾向があるのだという。

(1)「うけいれる」(自己受容)
(2)「ほめる」(自尊心)
(3)「らくになる」(楽観性)
(本書135ページより)

まずは「うけいれる」(自己受容)について。

孤独に悩んでいる人は、ありのままの自分を受け入れることができていないところがあるのだと著者は指摘している。「ひとりぼっちである」「友だちがいない」「ものごとをネガティブに考えてしまう」など、マイナス要素にばかり目を向けてしまいがちだということだ。あるいは他人と自分とを比較して、自分を卑下するところもあるかもしれない。

しかし、そのようなスタンスでいることがプラスに作用しないことは、誰の目にも明らかだろう。

幸せな孤独を手に入れるための最初のステップは、自分が不幸だと思っていることを並べて、それが「悪い心のクセ」だと気づき、苦しんできた自分をゆるしてあげることです。不幸の要素がなくなれば、ようやく「どうやって幸せになろうか」という段階にステップアップできることになります。(本書136〜137ページより)

悲しい出来事ばかりをクローズアップしてネガティブになるのではなく、いい意味での「あきらめ」を持つこと、それが「うけいれる」ことにつながるのだという考え方だ。

過去は変えられないけれども、自分の心と未来は変えることができる。そういう意味では、マイナスからゼロ地点に戻ることが「うけいれる」ということになるのである。

2つめは「ほめる」(自尊心)で、当然のことながらこれは自分をほめることを指す。

孤独感から抜け出せない人は、自分が本当におもしろいと思うこと、得意なこと、他の人には真似できないことなど、自分の魅力や特徴に気づいていないところがあるものだ。それどころか、「自分にはなにもない」と決めつけてしまう傾向すらあるかもしれない。

だが、そういう誤った思い込みや心のクセが問題であることは明白だ。たとえば対人関係に消極的だからといっても、人間的な魅力がないということにはならない。おとなしい人であっても、コツコツと地味な作業を根気よく続けられるとか、整理整頓が得意であるとか、それぞれの魅力があるものだからだ。

幸せな孤独を手に入れるための次のステップは、自分にできることを並べて、「なかなか自分も面白い人間だな」と、ほめてあげることです。できる自分に気づけると、自信につながります。(本書138ページより)

孤独感に苛まれていると、自分の魅力に気づきにくいかもしれない。だからこそ、あえて「できること」を並べてみるべきなのだろう。

3つめの「らくになる」(楽観性)が、孤独に悩んでいる人にとってハードルの高いことであるのは事実だろう。しかし、「うけいれる」段階で自分のよいところも悪いところも認め、「ほめる」で自分のよいところを伸ばしてみれば、その先にある「らくになる」も思っているほど越えにくいものではないことがわかるのではないだろうか。

孤独な人は、この先もずっと孤独であることを過度に恐れています。しかし、現実には「幸せな孤独」を手に入れた人もたくさんいます。孤独であっても、正しい心のクセさえ身につけ、幸せになれることを理解していただければ、将来を悲観する必要もありません。(本書139ページより)

どのような現実もポジティブに受け止めるようになれれば、目の前の景色は間違いなく変わる。その結果、幸せな孤独に到達するまでの道のりはそれほど困難なものではないということもわかるだろう。本書は、そんなことを教えてくれるのだ。

『幸せな孤独』
前野隆司 著
アスコム

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( ‎PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

 

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