「勤勉性」を身につけた子どもは、社会で成熟して生きていくことができます
「勤勉性」を身につけた子どもは、社会人になったとき、職場の同僚や先輩、上司と自然な交わりができます。だから、自分に期待されていることができなかったり、わからないことがあったなら、自ら職場の仲間に聞くことができます。
また、会社や社会が自分に期待していることを理解して、習慣的に努力をすることができるので、どんな職場にもある程度なじんで、仕事をすることができます。だから、安易に転職をしたりしないんですね。
しかし、仲間と学び合い、教え合う経験が乏しい「勤勉性」を身につけていない若者は、自分に期待されていることができなかったり、わからないことがあったとき、誰にも相談できずに、悩みを話すこともできません。そして、そういった思いが大きくなって会社を辞めてしまうわけです。
そうして、そのようなことを何度も繰り返していくうちに、「会社が、社会が悪い」と考えるようになってしまう。彼らの中には、やがて「ひきこもり」や「ニート」になってしまうケースもあります。
子どもの友人関係には口を挟まない。さまざまなたくさんのお友だちと遊ばせてあげてください
いまの親たちは、子どもの友だち関係についてあれこれ意見を言って、つきあいを制御することが多いですね。でも、それは社会で生きていくために不可欠な「勤勉性」の芽を摘んでいるのと同じです。
学童期にたくさんの友だちと遊んだ子どもは、やがて思春期になったとき、友だちを見る目が育ち、自分の性格や好みに適した友だちと上手につきあうことができるようになります。
「親」という字は、「木に立って見る」と書きますが、それは親の役割というものをよく表していると思います。
友だちと楽しそうに遊ぶ子どもの姿を見守ること。それこそが、親のもっとも重要な役目です。
この重要性を、祖父母の皆さんは、子どもを持つ親たちに伝えてあげていただきたいですね。子育てを一度経験したおじいちゃんやおばあちゃんだからこそ、伝えられることだと思うんです。
ただし、お孫さんが小学生時代に友だちとたくさん遊ぶためには、乳幼児期に「根拠のない自信」を持つことが必要です。
「根拠のない自信」とは、心理学的には「基本的信頼感(ベーシックトラスト)」と言って、自分を信じて生きていく力を持つことです。
そのためには、何度も言いますが、乳幼児期に子どものありのままを受容して、たっぷり甘えさせてあげることが必要です。
「根拠のない自信」を身につけた子どもは、相手を信じられ、その人の気持ちを思いやることができるので、多くの友だちと上手につきあい、交流することができるからです。
乳幼児期や小学生時代に十分に愛され、友だちと遊べなかった子どもは、やり残したことを、思春期、青年期になってからでも取り戻そうとします。
その変形したあらわれが、仲間との暴走とか、ブランド商品へのあこがれです。また、きわめて親しい人以外の人とつきあうのが、不安や苦痛になるというパーソナリティーを持つこともあります。
だから、乳幼児期に子どもをたっぷり甘えさせてあげることは、子育てにおいて本当に大事なことなんです。
このことも祖父母の方々は、子育てをしている娘さんや息子さんたちに伝えていただきたいと思います。
佐々木正美(ささき・まさみ)
児童精神科医。1935年、群馬県前橋市生まれ。新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学留学後、国立秩父学園、東京大学、東京女子医科大学、ノースカロライナ大学などにて、子どもの精神医療に従事する。臨床医として仕事をする傍ら、全国の保育園・幼稚園・学校・児童相談所などで勉強会、講演会を半世紀以上にわたりつづけた。2017年没。深い知識と豊富な臨床経験に基づいた育児書は、いまも子育てに悩む多くの親たちの信頼と支持を得ている。『子どもへのまなざし』《正・続・完》(福音館書店)、『育てたように子は育つ』(小学館文庫)、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。
『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』
著/佐々木正美 書/相田みつを 監/相田一人 小学館刊
佐々木正美が語る幸せな人生のしめくくり方
癒やしの精神科医が、81歳を迎えた自身の人生を振り返りながら、人生の終盤をいかに生きるかを、相田みつをの言葉と書にのせて綴る。巻末には、相田みつを美術館館長が語る「父・相田みつをと佐々木正美さん」を収録。
構成・文/山津京子(やまつ・きょうこ)
フリーランス・ライター&編集者。出版社勤務を経て、現在に至る。主に育児・食と旅の記事を担当。佐々木正美氏とは取材を通して20年余りの交流があり、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)、『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』(小学館)の構成を手掛けた。