日本の児童精神科医学のパイオニア・佐々木正美先生。半世紀以上にわたり、子どもの育ちを見続けながら子育て中の親たちに寄り添ってきた先生の著作や言葉には、子育てだけでなく人生を幸せに生きるための道標がたくさん残されています。この連載では、その珠玉のメッセージを厳選してお届けします。
構成・文/山津京子
お孫さんが転職を繰り返しているとしたら、それは小学生時代に同世代の友だちとたくさん遊んでいないからかもしれません。
近年、勤め始めてすぐに会社がいやになり、仕事を辞めてしまう若者が増えています。そして、それを繰り返しているうちに、社会からドロップアウトしてしまうこともしばしばあります。
私はそうした若者たちにこれまで精神科医として何人も会ってきました。
そんな彼らが私に話すのは、「会社が合わなかった」「自分に合う仕事ではなかった」というような言葉です。
彼らはまじめで、働きたい気持ちはあるのです。しかし、会社に溶け込めず、勤勉に働くことができないのです。
その多くの原因は、小学生時代(学童期)に学ぶべきだった「勤勉性」を身につけていないことにあります。
「勤勉性」とは、まわりの人や社会から期待されていることに対して、自発的に、しかも習慣的に行動ができることです。まわりの人から強制されるのではなく、自発的に行動できる。しかも、やったりやらなかったりということではなく、社会から期待される活動を、習慣的に取り組むことができるというのが、「勤勉性」です。
人はこうした「勤勉性」を獲得することで、社会的な人格を成熟させていけるのです。
ここでいう成熟とは、人間同士の関係性を育むことであり、人間が相互に協力し合ってつくりあげてきたルールなどを守り合うという能力なども含んでいます。
「勤勉性」は幼稚園や小学生時代に、たくさんの友だちと接することで身につきます
では、どうしたら「勤勉性」が身につけられるかといえば、それは、小学生時代に大人からではなく、たくさんの友だちと出会い、接して、そうした友だちから社会で生きていくために必要なものを与えられ、自分自身も与える体験を積み重ねていくことが必要です。
それは、例えば昆虫の飼い方だとか、サッカーボールの蹴り方だとか、算数問題の解き方だとか、なんでもいいんです。遊びだって、勉強だってなんでも構わない。友だちとの会話をするだけでもいいんです。
重要なのは、そうした体験を数多く重ねることです。
小学生時代に友だちから学ぶべきことは、「質より量」。
大人の頭や価値観で考えるような立派なことでなくていいんです。友だちからはどれだけたくさんのことを教えられ、友だちにどれだけ多くのことを教えることができるかという点が大事です。
こうした体験が豊富になればなるほど、人間というのは、人を信じる感情や自分自身を信じる機能を大きくしていくことができ、社会的機能を果たしていく力=「勤勉性」を育んでいくことができるんですね。
【「勤勉性」を身につけた子どもは、社会で成熟して生きていくことができます。次ページに続きます】