「何科の先生なんですか?」

そのうち、共用スペースに好子さんがいると、人がいなくなる気がするようになった。

「考えすぎなのかもしれませんけどね。嫌われるようなことはしていませんし。共用スペースに行くといっても、30分程度なのですけど」

ある日、共用スペースで本を読んでいると、道代さんが帰ってきた。「おかえりなさい」と言うと、「ありがとう」と言われた。

そのくだけた雰囲気に、前から聞いてみたかった、「何科の先生なの?」という質問をぶつけた。ちょうど、娘の彼の弟が医学部を卒業しており、別の仕事をしている話を聞いたばかりだったこともある。

道代さんは「私は医師ではないよ」と言った。それに対して「カッコいい雰囲気だし、お医者さんだと思っていた」と言った。さすがに好子さんも思い込みで暴走していたと感じ、「ごめんなさい」と謝った。

「その日は笑って、“おやすみなさい”と言ってくれたのに、その翌日から住民用の連絡が転送されてこなくなったんです。道代さんは相変わらず忙しく、私もコロナがある程度落ち着いて、仕事もハードになっていった。気が付くと1カ月間が経過していたんですが、なんとなく空気が違うんです」

仲間外れにされているような雰囲気だったという。好子さんは15年間の別居を隠すために、友達付き合いをしていなかったから、女性同士の微妙な付き合い方がわからないのではないか。

「挨拶もそこそこに避けられたり、仲いい人達同士で買い物に行っていたりする様子を見るたびに、疎外されていることを感じるんです。“心地いい人とだけ付き合いたい”みたいな話を聞いていると、私のことを話しているのかと思ってしまったり」

道代さんは相変わらず、あいさつや立ち話などはしてくれる。

「突っ込んだ話をすると“忙しいのよ”と立ち去られてしまう。でもまあ、お医者さんじゃなかったら、別にいいかとも思うんです。やはり、私自身も、相手の価値を高める人間でありたいし、付き合う人も自分の価値を高めてくれる人間がいいですから」

その後、居心地は相変わらず悪く、入居1年で引っ越すことを考えている。

「こんなことなら普通の賃貸に住めばよかったと思っています。みんなでパンを焼いたり、味噌を作ったりというところまでは考えていないけれど、もっと交流したかった」

コミュニケーションが上手な人は、相手と上下関係を作ろうとはせず、肩書などの情報でその人を判断しないことが多い。「これを言われたら、相手はどう思うだろうか」「相手をコントロールしようとはしていないだろうか」と、無意識的に考えて発言している人も多い。

年齢を重ねるごとに、幸福度は大きく開いていく。それは物質や肩書、友人の数ではなく、自分の幸せを自分軸で追求することにあるのではないか。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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