いつからか、父は普通で、私がダメという心境に
杏璃さんと父親は直接言い合いに発展したことはなく、杏璃さんのもやもやした気持ちはすべて父親には伝わっていない状況。そのまま表面上は仲良くしており、父親はお金の面でどんどん杏璃さんを頼ってきたと言います。
「子どもが生まれたことで私たちが帰省するだけでなく両親も上京してくるようになりました。そこで両親は私たちの家に来る以外に東京観光をして帰るのですが、父は私たちの予定も聞かずに私たちの家にずっと泊まる気でいたんです。私はいいのですが、夫の居心地なども考えると最初の1、2泊以外はホテルに泊まってもらうために予約したのですが、その料金は『ありがとう』で終わりです。1回や2回ならいいのですがそれが何度も続いて、そのときには子どもがまだ小さくて働いてもいなかったので私が独身のときの貯金から払っていました。夫はいいといってくれましたが、義両親は同じ都内ながら頼ることも干渉もしないでいてくれているのに、私の親だけ迷惑をかけるわけにいきませんから。
母親が私にお金を返すと言ったときには父は不機嫌になり、『今まで育てた分で十分返せるよな!』みたいなことを笑顔で言っていました」
そんなことが続く中、杏璃さんは自分が何でもやもやしているのかわからなくなり、父についてそんな気持ちを抱くことに罪悪感を持つようになっていったとか。
「父親は私にだけでなく、兄にも連れて行ってほしいところがあると遠慮なく伝えていて、兄は特に何も気にしていない様子。お互いに父親のことについて話し合ったことはないですが、そんな兄の姿を見ていると私の気持ちが小さいのかなとか、確かに何不自由なく育ててもらったのは間違いないのにこんな気持ちを抱くなんてと、私がおかしいという気持ちになってきたんです。父は相変わらず私に対して笑顔で接してくれているのにって」
現在も何も言えない関係が続いているそうで、母親に黙ってのお金の無心にも対応しているとのこと。
「コロナ禍で最近は会えていないんですけど、父は何か欲しいものがあると私のメールに欲しい商品のURLを張り付けてくるようになりました。今は子どもも大きくなり、また働き出したのでお金の面は問題ないから対応しています。母親もこのことを知らないようで、私からも伝えていません。我慢……ではなく、恩返しだと思おうとしています。キレイ事かもしれませんが……」
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。