相続が発生した際、遺産分割の手続きや相続税申告の作成など、限られた時間の中で色々とやるべきことが発生します。その中でも相続財産に不動産がある場合は「相続登記」を行う必要があります。そして、「相続登記」をご自身で行うのか専門家に依頼するのかを判断しなければなりません。
そこで今回は、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告や相続登記のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき相続登記の基礎的な内容から、ご自身で手続きができるのかどうか、そして相続登記の義務化の問題についてもお話ししたいと思います。
目次
相続登記とは?
相続登記に必要な書類とは?
相続登記の費用
相続登記申請書の書き方
相続登記は自分でできる?
相続登記の義務化について
まとめ
相続登記とは?
土地や建物といった不動産には必ず「不動産登記簿」が存在し、地目や地積、所有者の情報や持分、抵当権に至るまで様々な情報が登録されています。その中でも所有者の方が亡くなり、その方の持分が相続人へ移った事を証するために名義を書き換えることを「相続登記」といいます。
相続登記に必要な書類とは?
相続登記に必要な資料の一覧は下記の通りです(遺言書、遺産分割協議、または、法定相続分による相続かどうかで必要資料は異なります)。
・登記申請書
・相続関係説明図
・相続人の印鑑証明書
・被相続人の戸籍謄本又は除籍謄本
・相続人の戸籍謄本又は戸籍抄本、住民票の写し
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税課税明細書など
必要書類の有効期限
印鑑証明書に関しては、ほとんどの銀行で発行してから3か月、もしくは6か月以内のものと指定されていることに注意しましょう。亡くなってから早々に印鑑証明書の交付申請をするのが理想的ですが、遺産分割協議等に時間がかかった場合は、改めて交付申請をする必要があります。
相続登記の費用
相続登記申請時の費用内訳として下記の1~5が発生します。
<相続登記にかかる5種類の費用>
1、登記手数料
2、登録免許税
3、添付書類の発行手数
4、財産調査費用(名寄帳の交付)
5、専門家報酬
必要経費
業務用資産にかかる登記手数料や登録免許税は、相続人の所得計算において必要経費に算入することができます。賃貸不動産を相続した時や、相続した賃貸不動産を売却する場合には忘れずに計上しましょう。
専門家に依頼した場合の相場
相続登記を司法書士または弁護士に任せる場合、専門家報酬が必要になります。加えて、土地や家屋の測量が必要な場合は、別途土地家屋調査士にも依頼をしなければなりません。
・司法書士
司法書士は不動産登記のエキスパートであり、相続登記の依頼先として望ましい専門家です。司法書士報酬の目安は10万円程度。複雑なケース(相続人の数が多い・数次登記する必要がある)に及ぶと、さらに報酬が高額化します。
・弁護士
弁護士も不動産登記に対応しています。他の相続人との代理交渉・遺産分割調停のサポートを含め、相続の悩み全体を解決できるのが特徴です。司法書士に比べて業務範囲が広範となることから、弁護士報酬の目安として20万円以上は必要となるでしょう。
・土地家屋調査士
相続登記にあたって現地調査、または測量が必要になった場合は土地家屋調査士に依頼しなければなりません。具体的な依頼内容として「相続登記前後の土地分筆、または合筆」「地目変更(農地の宅地転用他)」などが該当します。土地家屋調査士の報酬目安は、地目変更または合筆登記なら5万円程度。分筆登記なら20万円~70万円程度と、依頼内容により大きく差が出ます。
相続登記申請書の書き方
相続登記申請書は、白色のA4用紙にパソコンを使用して入力するか、黒色インク、黒色ボールペン、カーボン紙等で記入する必要があります。鉛筆のように文字が消えてしまうものは、使用できません。相続登記の申請書を書くには、一定のルールなどを理解して作成する必要があり、相続のケースによっては申請書の書き方が異なるので注意が必要です。
相続登記は自分でできる?
専門家の手を借りず、相続人だけで登記を終わらせることは不可能ではありません。法務局や市区町村役場で用意されている登記支援窓口を利用すれば、登記完了までこぎつけることができるでしょう。しかし、留意したいのは費用よりも、手続きに割く時間や労力が重い負担となりやすい点です。相続人や相続財産の内訳が相当数に及んだり、登記義務者である相続人自身が高齢だったりすると、以下のような失敗発生のリスクが高まります。
【自力で相続登記する際によく起こるトラブル】
・添付書類に不足があり、役場を何度も往復する羽目になった。
・添付書類の種類に誤りがあり、余分に発行手数料がかかってしまった。
・一部の相続人と連絡が取れず、書類収集に何か月もかかってしまった。
・対象不動産の権利関係が複雑になっていることが分かり、申請準備をはじめからやり直すことになった。
相続登記の義務化について
現行の法律ですと相続登記は義務ではありません。そのため、手間や登記費用等を惜しんで多くの方が手続きを行わず、「所有者不明土地」が増え続けてしまっているのが現状です。そこで、国の施策として相続登記を義務化する方向で動くことになりました。
問題点
例えば、この問題を国や自治体目線で考えると、「所得者不明土地」を「公共用地として取得したい」といった場合、「所有者が分からないため交渉ができず国土として利用が出来ない」「災害対策の工事が必要だが、所有者がわからないため工事が進められない」といったような事例が起こっています。
また、一般の個人同士でも所有者がわからないため対処ができず、かと言って無断で立ち入ることもできません。そのため、結局そのままになってしまい、下記のような問題が生じることも少なくありません。
・建物の経年劣化が進み倒壊の危惧がある。
・草木が生い茂って近隣住民に迷惑が掛かっている。
いつから
今後も「所有者不明土地」が増え続けることが懸念されることから、「相続登記の義務化」が2021年2月10日の法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において決定し、同年4月23日の国会で成立しました。政府は2024年までに施行する方針を示しています。
まとめ
相続登記は司法書士や税理士、土地家屋診断士などの専門家にしかできないものではなく、一般の方がご自身で行うことができます。ただ、書類の準備や申請手続き、専門知識がないためにスムーズに進まないなど、相当の労力と時間を要します。今後、相続登記が義務化されるため、現在相続登記を放置されている状態でもこの法改正が行われれば、いつかは相続登記を行わなければなりません。
「所有者不明土地」になってしまうと、相続発生後にご家族が思いもよらないトラブルに巻き込まれることもあります。ご自身で手続きを進めることが難しければ、専門家の力を借りて、できる限り早期に登記を進めることをお勧めします。
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com)
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)