成年後見人の費用

成年後見制度を活用することで、将来の不安が払拭されるなら、ぜひ成年後見制度を利用したいと考えている方もおられると思います。しかし、「成年後見制度を利用するには、結構お金がかかるのではないか? 」と、費用面が心配な方も多いのではないでしょうか。

成年後見制度を利用するには、大まかに2種類の費用がかかります。

(1)成年後見人の選任申立て手続きに関する費用(申立人が裁判所に納める費用等)と、(2)後見人報酬(本人から後見人に対して支払う費用)です。

特に後見人報酬は後見が終了するまで発生する費用であり、長期にわたる可能性があります。今回は、気になる成年後見制度の利用にかかる費用について、わかりやすく解説していきます。

目次
成年後見制度のしくみ
成年後見人制度にかかる費用
成年後見人の費用が払えない場合
まとめ

成年後見制度のしくみ

成年後見制度には、法定後見制度任意後見制度の2種類があります。

法定後見制度

法定後見制度とは、認知症や知的障がい、精神障がいにより判断能力が不十分な本人に代わり、成年後見人が、本人のために財産管理や契約などの法律行為を支援する制度のこと。

対象となるのは、すでに認知症などを発症しており、自分で判断することが難しい人です。要支援の程度により「後見」「保佐」「補助」と3類型あり、後見が最も要支援の程度が重く、保佐、補助と程度が軽くなります。

任意後見制度

任意後見制度は、今はまだ元気だが、将来もし自分が認知症などで判断能力が不十分になった時に備えて、自分の判断能力に問題がない時点で、事前にあらかじめ代理人を定め、代理してもらいたい内容や、財産管理について契約により定めておく制度です。

一般的に、成年後見制度と呼ばれるものは、法定後見制度のことを指す場合が多く、今回は、法定後見制度にかかる費用を解説していきます。

成年後見制度にかかる費用

冒頭で記述したとおり、成年後見制度を利用するには大まかに2種類の費用がかかります。(1)成年後見人の選任申立て手続きに関する費用(申立人が裁判所に納める費用等)と(2)後見人報酬(本人から後見人に対して支払う費用)です。

成年後見人の選任申立て手続きに関する費用

成年後見人の選任申立て手続きに関する費用とは、家庭裁判所に対して、本人に成年後見人を選任することを申し立てる手続きにかかる費用のことです。基本的に申立人が負担します(審判によって本人の財産から支出できる費用もあります)。各家庭裁判所によって若干前後しますので、詳しくは管轄の裁判所にお問い合わせください。

▷東京家庭裁判所の例
・申立印紙代:3,400円(800円+2,600円 ※申立書貼付け分+後見登記分)
 ただし、保佐・補助の申立てで、代理権や同意権の付与申立てもする場合には、それぞれ+800円
・予納郵券:3,270円分 ※裁判所が審判書の郵送や後見登記を指示する際に使用する切手
 ただし、保佐・補助の場合は、4,210円
・医師の診断書作成費用:数千円程度 ※医療機関により異なる。
・登記されていないことの証明書を取得する費用:300円
・本人の戸籍謄本:450円~数千円 ※親族関係を証明する場合は複数取得する必要がある。
・本人の住民票:300円
・医師の鑑定費用:数万~10万円程度
 本人の判断能力がどの程度あるかを医学的に判定する手続を鑑定といい、診断書とは別に、裁判所が医師に依頼する形で行われる。申立て時には必要ではなく、裁判所が必要と判断した場合にだけ、必要となる費用。
・その他、添付資料にかかる費用:数千円程度
(例)不動産の登記簿謄本:600円/通、銀行や証券会社の残高証明書等
 ※ただし、残高証明書については、通帳の写しや取引残高証明書等の提出で足りる場合が多い。

まとめると、法定後見人の選任申立て手続きには、医師の鑑定費用を除いて、「後見」の場合で13,000円程度、「保佐」「補助」の場合で16,000円程度の費用がかかります。

▷後見人報酬
「成年後見人」「保佐人」「補助人」の後見人としての職務に対する報酬です。家庭裁判所が後見人報酬を決定し、年に一度、1年分の報酬が本人の財産から後見人に支払われます。報酬額の明確な基準が示されているわけではありませんが、本人の財産額が目安となり、本人の生活に支障のない金額が後見人報酬に決定されます。後見人報酬には(a)基本報酬と(b)付加報酬の2種類があります。

(a)基本報酬とは
本人の通常の後見事務に対する報酬です。目安の報酬額は月額2万円ですが、本人の財産額によって変動します。本人の財産額が1,000万円超~5,000万円以下の場合には月額3~4万円,5,000万円超の場合には月額5~6万円程度です。

(b)付加報酬とは
通常の後見事務に特別困難な事情があった場合には、家庭裁判所は上記基本報酬額の50%の範囲内で相当額の報酬を付け加えることができます。例えば、「訴訟行為を行った」「遺産分割協議を行った」「不動産を売却した」など。

これらの後見人報酬は、後見が終了するまで発生する費用であり、長期にわたり発生する可能性のある費用です。もちろん、後見人が親族であった場合でも、後見人報酬は支払われますが、報酬を請求しない場合が多いようです。

※上記の後見人報酬とは別に、成年後見監督人に対する報酬が発生する可能性があります。成年後見監督人とは、後見人等の後見事務を監督するよう家庭裁判所に選任された者のことです。親族が後見人等に選任された場合に、弁護士や司法書士などの専門家の成年後見監督人が選任されることがあります。成年後見監督人への報酬は月額1~3万円程度です。

成年後見人の費用

プロに依頼する場合

次に、弁護士や司法書士などの専門家に依頼した場合の費用について、ご説明します。専門家に依頼した場合、成年後見人申立手続きの代理や支援に対しての報酬が発生します。つまり、「後見」の場合は約13,000円、「保佐」「補助」の場合は約16,000円の実費相当に加えて、専門家への報酬が発生することになります。各専門家によって金額は異なりますので、直接ご確認ください。

なお、後見人報酬は、家庭裁判所が報酬額を決定するため、後見人が専門家であっても費用は変わりません。

成年後見人の費用が払えない場合

成年後見制度は、本人の財産管理から身上監護と幅広く及びます。身上監護とは、本人の生活を維持するための契約手続き(例えば、病院や介護施設)などを代わりにすることです。財産が少ないからといって、財産管理や身上監護の必要性がなくなるわけではありません。そこで、金銭的な事情で成年後見制度の利用が制限されないよう各種支援制度が用意されています。

成年後見人選任申立てについての費用助成

法テラスの民事法律扶助制度
申立印紙代や予納郵券代や医師の鑑定費用、弁護士や司法書士への報酬を立替えてくれる制度です。
※費用の立替えです。支払う必要はありますので、注意が必要です。

成年後見制度の首長申立て制度
身寄りがないなどの理由で、親族などによる法定後見の申立てができない方を対象に、本人が居住する地域の首長(市区町村長)が成年後見人選任の申立人となる制度です。申立てに必要な費用の一部または全てを負担してくれる自治体もあります。

後見人報酬についての費用助成

自治体の報酬助成制度
各市区町村の自治体が後見人報酬の支払いが困難な方を対象に、後見人報酬の支払いを助成してくれる制度です。要件や助成金額も各自治体によって異なりますので、本人の居住している自治体の担当窓口に確認したほうが良いでしょう。

まとめ

いかがでしたか? 成年後見制度の利用にかかる費用を解説してきました。費用がわかると、制度の利用を検討しやすくなりますよね。成年後見制度は、後見人を誰が務める場合でも、また、財産の多い少ないにかかわらず、様々な状況であっても、安心して利用できるように国が定めた制度です。

今回の記事が成年後見制度を気軽にアクセスできる一助になれば幸いです。

●構成・編集/内藤知夏(京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

●取材協力/坂西 涼(さかにし りょう)

sakanishi

司法書士法人おおさか法務事務所 後見信託センター長/司法書士
東京・大阪を中心に、シニア向けに成年後見や家族信託、遺言などの法務を軸とした財産管理業務専門チームを結成するリーガルファームの、成年後見部門の役員司法書士。
「法人で後見人を務める」という長期に安定したサポートの提唱を草分け的存在としてスタート、
全国でも類をみない延べ450名以上の認知症関連のサポート実績がある。認知症の方々のリアルな生活と、多業種連携による社会的支援のニーズを、様々な機会で発信している。日経相続・事業承継セミナー、介護医療業界向けの研修会など、講師も多く担当。

司法書士法人おおさか法務事務所(http://olao.jp

 

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