親に本音を言えない自分が嫌で仕方ないものの……
逆の立場を味わったことで自分の考えに迷いが出てきたそうですが、今さらどうしようもないと加奈子さんは言います。
「母親は元気になった後でその事実を伝えてきたんですが、そのときに思ったのは『家族なんだから心配かけてもいい』という思いでした。それに言ってくれなかった母親に対して、少し怒りみたいな感情を覚えたんです。一緒に暮らしていないので伝えられたものを事実として受け止めるしかないのに、それに嘘があったらどうしようもないと。私が今感じている感情は、もしかして両親も私の乳がんを知ったら思う気持ちなのかなって。黙っていることは間違っているんじゃないかなって思いました。
でも、今さらどうすることもできません。今さら知ったら余計に怒りを覚えたり、悲しい気持ちになると思いますから」
そして加奈子さんは気を使って、本音を隠す親子関係に疑問を持ち始めているんだとか。
「昔から家族仲も良くて私は今も両親が大好きなのに、心配をかけたくないって遠慮してしまう気持ちって何なのかなって。私も当然のように黙っておかなければと思ったのは、両親のことをどこかで頼ってはいけない存在として考えているからでしょうか。本音が言えない親子関係って、うまくいっていないってことなんですかね……。親子関係がよくわからなくなってきました」
今はコロナ禍で会えない状況であり、心配をかけたくない思いからよりそのような気持ちが強くなり、もやもやが続いているとのこと。「今さら」という言葉を加奈子さんはよく口にします。
「新型コロナではなかったんですが、ウイルス性の胃腸炎になってしばらくダウンしていたんですが、そのときも親からの電話には元気なフリをしていました。
もうクセみたいなものなんです。自分はいいけど、親にされたら嫌だなんてただのわがままなのでしょうか……」
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。