フィットネスクラブ(スポーツジム)の倒産や廃業、2020年度は過去10年で最多に

フィットネスクラブの苦戦が続いている。帝国データバンクの調査では、昨年度(2020年4月~21年3月)に発生したフィットネス(スポーツジム)事業者の倒産や廃業が累計26件に上った。19年度の23件を上回って過去10年で最多となり、過去20年間ではリーマン・ショック直後で需要が大きく後退した2008年度の29件に迫る。

フィットネスクラブ業界では、設備が充実した大型店舗の出店から、提供プログラムの特化などで省スペース・割安な小型店舗を駅前・駅ナカやロードサイドに出店するなどして店舗網を拡大。24時間営業化による利便性の向上、光や映像などを多用したエフェクトスタジオなどサービスの質的向上や差別化にも注力し、顧客層の開拓を進めていた。こうした各社の営業施策に加え、2019年のラグビーワールドカップ、2020年に開催予定だった東京オリ・パラなど大型スポーツイベントの開催効果で、スポーツ機運の高まりが追い風となり、従来のメイン利用者だったシニア層に加えて、会社帰りのビジネスパーソンといった新規顧客層を獲得、各社の業容は総じて拡大傾向にあった。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により経営環境が一変している。業容拡大に伴い、顧客獲得競争が次第に激化していたなか、自治体からの要請で余儀なくされた度重なる営業時間短縮や休業、会費免除や休退会者の増加といった問題に直面した。また、スポーツ施設が感染リスクの高い施設として捉えられたことから新規会員の獲得も伸び悩み、各社とも平時の営業状態へ回復するメドが立たない状況が続いている。

そのため、大手事業者でも大幅な赤字を計上するなど非常に厳しい業況を余儀なくされ、特に経営体力に乏しい中小フィットネスクラブが耐えきれず経営破綻や事業継続を断念するケースが増えているほか、大手でも不採算店舗の整理といった動きが目立っている。

赤字も6割、大手各社も大幅な減収目立つ

帝国データバンクが保有する企業データベースを基にフィットネス事業者の業績を調査した結果、通期予想を含めて2020年度業績が判明した約500社のうち、7割超で前年度から売上減少となることが分かった。このうち、減収となった企業の売り上げ減少幅は平均で20%を超えており、前年度から半減以上となった企業もある。また、減収企業のうち利益動向が判明した企業約130社をみると、約6割が最終損益で赤字、2割では減益となり、損益面でも影響を受けた企業が8割超に上るなど、コロナ禍の影響が直撃した2020年度の収益状況は厳しさが改めて浮き彫りとなっている。

背景にあるのは、コロナ禍に伴う利用者の急減と、それによる会費収入の大幅減がある。経済産業省の調査によると、近年のフィットネスクラブ利用者は累計で2000万人を超え、20年間で約2倍に増加。しかし、国内で新型コロナの感染が拡大、緊急事態宣言の発出や新型コロナ感染拡大スポットの例としてフィットネスクラブが取り上げられたことが響き、昨年5月には、利用者数は2019年のわずか5%台まで急落していた。以降は感染対策を強化しながら各施設を順次再開させたものの、在宅勤務の普及や不要不急の外出自粛などで店舗への来店頻度が大きく落ち込み、今年に入っても利用者が前年比7割前後の回復にとどまるなど、需要の回復は遅れ気味の状況にある。

もともと、フィットネスクラブ各社は健康意識の高まりから利用者の安定した獲得を織り込み、都心部などを中心にジム開設を進めるなど、積極的な業容拡大策を進めてきた。そのため、コロナ禍による利用者の急減は各社とも想定外の事態で、休業補償金や雇用調整助成金などの支援もあったものの、即座の対応は難しく、会費収入の低下で売り上げ激減を余儀なくされた。加えて、増員したインストラクターに対する給与負担や回収困難となった新規出店費用、既存店の賃料負担が重くのしかかり、大手では数億円規模の欠損となるケースも出るなど、経営へのダメージがより拡大する要因になった。

そのため、近年右肩上がりの成長が続いたフィットネスクラブ市場全体でも、2020年度は大幅な縮小が見込まれる。現状のペースで企業業績が推移した場合、20年度の市場規模推計は5000億円台にとどまる見通しで(事業者売上高ベース)、過去最高となった19年度の約7100億円から3割超の減少となるほか、過去10年では初めてとなる市場縮小を余儀なくされる見通しだ。

伸びしろ大きい日本市場、キーワードは「脱店舗」 オンライン・アウトドアに活路求める動きが加速

フィットネスクラブの今後は、外出自粛などの動きから、来店頻度の低下、店舗の集客力低迷が続くとみられ、当面の間は各社にとって厳しい経営環境が続くだろう。ただ、国内のフィットネス会員総数は500万人前後と人口の5%にとどまり、全人口の約3割が会員となっている米国のような海外市場に比べると、人口当たりの会員数はまだまだ少ない。

また、顧客満足度調査を手掛けるoricon ME社が、昨年11月に約5200名を対象として実施した調査では、フィットネスクラブの利用について現利用者のほぼ全員が継続を考えているほか、コロナ禍で利用を中止した元会員でも7割以上が再度利用したいと回答。外出自粛が長期化するなか、改めて運動や健康への見直しも進んでおり、国内市場が持つ成長ポテンシャルはコロナ禍でも依然として高い点が指摘できる。そのため、各社とも客足が伸び悩む屋内店舗型サービスから、オンライン中心のサービスや、アウトドア型のフィットネスなど新たな需要を掘り起こすことで、利用者の早期回復や経営の立て直しを模索している。

パーソナルジム最大手のRIZAPは、オンラインを活用した在宅フィットネスのプログラムを拡充。店舗の統廃合を進める一方で、TikTokやYouTubeなど動画投稿サイトを活用し、非接触・非対面型のサービス拡充に取り組んでいる。ジェイエスエスは同業大手のティップネスと協業し、同社が有する施設やLIVEレッスンプログラムといったサービスを割引価格で利用できるようにすることで既存会員の満足度を高める。他方、ルネサンスは傘下の子会社を通じ、アウトドア型のフィットネス事業へ本格的に参入。アウトドアフィットネスは屋外施設や自然環境を利用する新形態のサービスで、屋内での「“密”を回避したい」と考える個人利用者の潜在ニーズ取り込みが期待できるため、今後の事業拡大が見込まれる分野だ。

利用者急減のなかでも沸々とニーズが高まるフィットネス。店舗型サービスがコロナ禍で転換を余儀なくされるなか、「脱店舗」に向けた各社の次の一手が巻き返しにつながるか注目される。

 

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