取材・文/沢木文

親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。

* * *

ステイホームが家族を分断させた

上村俊介さん(仮名・65歳)は、コロナ禍が始まった1年前から家族と別居している。家族は30歳の息子、27歳の娘、そして結婚35年になる3歳年下の妻だ。妻子はコロナ禍を機に、近所の賃貸マンションに住んでおり、家賃は妻が払っている。

「もともと、夫婦仲は可もなく不可もなく。でもコロナ禍のステイホームで意識の違いが明確になった。妻と子供たちは、コロナに対する危機意識が低い。僕は本当に高かった。家から出たらコロナになるという意識で、真剣にステイホームをしていた。それなのに、妻と子供たちは気にせず仕事に行く。そういう状況が絶えられなくて爆発した」

かなり強い言葉でののしったことは、妻子が家を出て行ったことからもわかる。彼らがコロナ禍にも関わらず仕事に行くのには、理由があった。妻は医療関連、娘はドラッグストアのアルバイト店員、息子はスーパーマーケットの非正規社員で、休めないのだ。

「国中がコロナに命を脅かされているのに、休めないと仕事に行く。私も家族を守りたいから“休め!”と強い言葉で言わざるを得ない。そうするうちに、妻も子供たちも家に帰ってこなくなった」

俊介さんはエリートだ。コロナ禍ではリモートで仕事ができたという。プロフィールを伺うと、北陸地方の貧しい家に生まれ、奨学金を受けて理系の国立大学を卒業した。超大手の化学関連会社に勤務し、定年まで勤め上げ、現在も子会社の役員として収入を得ている。“お飾り”的な仕事ではなく、現役世代と仕事をしており、まだまだ働く気力にあふれている。

「英語やドイツ語の習得など、人一倍の努力をしている。常に新しい情報やサービスに触れて、自分の仕事に落とし込めないかを考えアップデートする。だからボーッとしている息子がふがいないんです。中学校で不登校になり、どれだけ強く言っても学校に行かなかった。それがあいつの失敗の始まり。その後も引きこもりになって、いろんなことがあったけれど、通信制の高校を卒業し、アニメか何かの専門学校に行ってもモノにならなかった。妹の方は高校を出てからフラフラしている。声優だ、観劇だと追っかけをしているのが楽しいみたいだね。ふたりとも現実の努力をせず、夢の世界にフワフワしている。だから2人とも正規の仕事に就けず、年収が200万円以下なんだ」

子育てに失敗したのは妻のせい!?……次のページに続きます

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