取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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化学関連会社の役員・上村俊介さん(仮名・65歳)は、コロナ禍が始まった1年前から家族と別居している。その原因はコロナ対策の意識差だ。30歳の息子、27歳の娘はともに非正規で年収200万円にも満たないという。結婚35年になる3歳年下の妻は医療関係の仕事をしている。妻子は3人で近所の賃貸マンションに住んでいるのだという。
【これまでの経緯は前編で】
周囲の優秀な子供たちの母親は専業主婦
ふたりの子供たちが非正規の定収入で働いていることについて、俊介さんは「子育てに失敗した」と考えている。その責任は、仕事をしており、ベタ付きで子供の世話をしていなかった妻にあると心の中で感じている。それは、専業主婦だった俊介さんの母親と比較しているからだ。
「大学の同級生や会社の同期には、成績優秀な子供たちがたくさんいる。その母親のほとんどが専業主婦ですよ。きちんとケアして、将来を考えてあげているから、子供は伸びる。子供は将来の夢を考えることはできても、そのために行った方がいい学校、その子の素質の見極めは親がやらなくてはならない。妻がやらないから私がやったけれど、男親はダメだね。息子は中学受験に失敗し、公立中学校に通ったのだけれど、ゲームにハマって不登校になった。昼間、家に親がいないんだもん、休み放題だよね」
娘は母親と趣味が合い、小学校高学年くらいから、ミュージカルや声優のイベントなどに通っているという。
「妻が金を出して“遠征”とやらに出かけている。驚いたことに今もそう。娘のインスタ(写真SNSのInstagram)とやらを見ると、妻と地方で観劇をしている。娘の稼ぎでは地方に遊びに行くなんてできないから、妻が出している。妻と子供たちの生活費は別居するまで私が出していたから、妻の稼ぎは全額が娯楽費。いい気なもんだよね。私が生活費を出していることにアグラをかいて、好きな仕事をして、子供たちを甘やかして腐らせているんだから」
俊介さんの言葉だけを切り取ると、前時代的な価値観で語っているように聞こえるが、家族への愛情や、父親としてのふがいなさのようなものが伝わってくる。家族に対して強く怒鳴ったことはあるけれど、手を上げたことがないというのもわかる。
「子供たちにLINEをすれば返ってきますし、避けられてはいない。でも後悔だらけなんですよ。息子だって大学さえ出ていれば、正社員になれたかもしれない。それなら、同じ仕事をしているのに正社員の半分以下の給料で、こき使われることもなかったはず。娘だってそうですよ」
そのために足りなかったのは、「なにくそ!」という気持ちではないかと俊介さんは考えている。
「ずぶずぶに甘やかして、アハハ・オホホと笑って生きられるくらい世の中は甘くない。ライバルに勝ち、親を乗り越えてこそ自立がある」
【スマホ代金も、社会保険料も母親に払わせている子供たち。次ページに続きます】