文/印南敦史

医学博士である『最新研究が示す 病気にならない新常識』(古川哲史 著、新潮新書)の著者は、コロナ禍において3つのことを実感したそうだ。

まずは、病気予防の大切さ。2つ目は、これを機に医療制度が大きく変わるのではないかということ。そして3つ目は、ストレス対応の重要性。

そこで、コロナ時代にこそ求められる「どうしたら病気になることを防げるのか」をテーマに掲げて本書を執筆したのだという。

特徴的なのは、「食事」「運動」「睡眠」「ストレス」を重視している点だ。今回はそのなかから「睡眠」に焦点を当ててみたい。まず確認したいのは、睡眠に関する「7つのポイント」である。

(1)ヒトには8時間睡眠が必要。睡眠時間が短いと寿命も短くなる
(2)昼寝は30分以内
(3)睡眠不足は、心停止、糖尿病、がんになりやすく、太りやすい。免疫力を弱めるため、風邪やインフルエンザにもなりやすい
(4)不規則な睡眠も、がんになりやすい。夜更かしする高齢者は認知症になりやすい
(5)良い睡眠をとると、記憶力、運動能力、創造力が向上する
(6)朝の運動は良い睡眠を招く。また、眠るのに最適な温度は18.3度
(7)コーヒーは午後2時以降とらない。深夜のコンビニ、スマホやパソコンはNG。お酒も睡眠には良くない。(本書103ページより引用)

睡眠と健康に関しての研究は多く、合計すると数百万人を対象とし、数十年にわたって追跡した膨大なデータが積み上げられているという。

それらすべての研究で共通しているのは、睡眠時間が短いと寿命も短くなるということ。特に心臓病、肥満、糖尿病、がん、認知症など、先進国で死因の上位を占める疾患の罹患が増えることだったそうだ。

しかも、よく知られたことばかりではなく、意外なデメリットがあるようなのだ。たとえばそのいい例が、睡眠不足と太ることとの関係性。睡眠時間が短くなると体重が増えるとは、やや意外な話ではないだろうか。

その犯人は、「レプチン」、「グレリン」と呼ばれる2つのホルモンです。この2つは食欲に関連するホルモンで、全く逆の作用をします。レプチンは、「満腹だ」というシグナルを出して視床下部にある満腹中枢を刺激し、食欲を抑えるホルモンで、別名「満腹ホルモン」と呼ばれます。一方、グレリンは「空腹だ」、すなわち「お腹が減った」というシグナルを出して食欲をもたらすホルモンで、別名「空腹ホルモン」と呼ばれます。(本書114〜115ページより引用)

このことについては、シカゴ大学のコーター博士による実験結果が紹介されている。

被験者に5日間、毎晩8時間半の睡眠をとってもらい、次の5日間は4〜5時間しか睡眠時間を与えない状態で、血液中のレプチンとグレリンを測定したというのだ。すると、4〜5時間睡眠では満腹ホルモンのレプチンが減り、空腹ホルモンのグレリンが増加していた。

とはいえ、空腹を感じたからといって、実際に食べる量が増えたとは限らない。そこで、ほんとうに食べる量が増えたか確認するため、コーター博士は睡眠時間と実際の食事量との関係を調べる2回目の実験を行った。

被験者に、4日間8時間半の睡眠をとってもらい、次の4日は睡眠時間を4時間半に削ったのだ。もちろん、活動量はどちらのときでも違いがないようにして。

一方、食事に関しては、どちらのグループも好きなだけ食べてよいこととした。すると、4時間半睡眠のほうが1日あたり300キロカロリーも多く食事をしたというのである。

短時間睡眠になることで食欲が増し、摂取カロリーも増えたのだ。

さらに興味深いことがある。どちらのグループも、肉、野菜、ポテトなどの栄養になるまともな食事は同じように2000キロカロリー食べたが、4時間半睡眠グループはこれに加え、300キロカロリー余分にアイスクリーム、クッキーなどのジャンクフードを食べていたのだ。

睡眠不足になると、なぜジャンクフードを欲しくなるのだろうか? ここには、脳の2つの作用が関係している。

1つめは、睡眠不足になると、脳内麻薬のエンドカンナビノイドが増えることです。このエンドカンナビノイドが食欲を増やすのです。
もう1つの理由は、睡眠不足により判断能力が鈍ることです。これは、8時間半睡眠と4時間半睡眠の被験者に、野菜・果物など身体に良いものから、アイスクリーム・ドーナツなどカロリーが高く身体に良くないものまで、80種類の食べ物の写真を見せて、脳波を記録する実験からわかりました。(本書116ページより引用)

被験者に食べ物の写真を見せ、脳波をとる実験を行うと、身体によいものや悪いものを見せたときには前頭葉皮質(正しい判断や衝動をコントロールする場所)の活動が高くなった。

これは、「この食べ物は食べたほうが身体にいいのかな?」「この食べ物はおいしそうだけど、やめといたほうが無難かな?」などと判断しようとしていることを意味する。

ところが睡眠不足になると、食べ物の写真を見せても前頭前皮質の活動が活発にならなかった。これは「睡眠が足りないと正しい判断ができなくなる」ということを示しており、寝不足の日の会議で、つい失言をしてしまったというようなケースにもあてはまる。

睡眠不足が体重の増加につながるということには、このような根拠があるのだ。

* * *

このように本書では、知っておいて損はない(いや、知っておいたほうがいいというべきか)情報が多数紹介されている。病気を避けるために、ぜひとも参考にしたい。

『最新研究が示す 病気にならない新常識』

古川哲史 著
新潮新書

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文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)などがある。新刊は『書評の仕事』 (ワニブックスPLUS新書)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。

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