■ペリーの自宅にいた日本犬

吉田松陰の渡航を拒んだペリーは帰国し、1858年3月4日、ニューヨークの自宅で63歳で亡くなります。万延元(1860)年、日米修好通商条約を結ぶために幕府から派遣された新見豊前守(ぶぜんのかみ)と村垣淡路守の二人は、表敬のためペリーの自宅を訪れます。二人を迎えたのはペリーの未亡人ジェーン・スライデル・ペリーとその娘、そして二頭の日本犬・狆(ちん)でした。

小原古邨作 狆

小原古邨作 狆

二頭の狆はペリーとともにニューヨークに渡り、珍しい犬として、大切に飼育されていたようです。新見と村垣が日本人だと知ると、二頭は「大いに悦び、踊ることきわまりなし」(柳川当清著「航海日記」より)と大歓待してくれた上、二人がペリー宅を去る時は「別れをおしみ、跡(後)をしたうそのさまは人のごとし」で、「実に不便(注:不憫のこと)にして、われらにいたるまで落涙におよび」と、別れを悲しみました。日本に帰りたかったのでしょうか。

ペリーが連れて帰った狆については、まだわからないことも多いのですが、愛くるしい狆が日本のイメージアップに役立ったことは間違いないでしょう。犬で渡米できなかった吉田松陰と、海を渡った狆。犬をめぐる、不思議な歴史の物語でした。

文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。

写真/木村圭司

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