取材・文/ふじのあやこ
近いようでどこか遠い、娘と家族との距離感。小さい頃から一緒に過ごす中で、娘たちは親に対してどのような感情を持ち、接していたのか。本連載では娘目線で家族の時間を振り返ってもらい、関係性の変化を探っていきます。
「両親には小さい頃から上下関係があって、私たち子どももそれが普通のことだと受け入れていて。思春期になると父親のことを嫌うというよりも、そんな父親と結婚してしまった母親のことがかわいそうだと思うようになっていきました」と語るのは、玲子さん(仮名・39歳)。彼女は現在、大阪府内で仕事をしながら一人暮らしをしています。
母親は育ててくれた人、父親は家で最優先するべき人だった
玲子さんは大阪府出身で、両親と4歳下に妹のいる4人家族。共働きながら、仕事を優先する父親と、家庭を優先してくれる母親といった両極端の考え方を持つ両親の下で育ちます。
「両親は私が物心ついた頃からずっと共働きで、父親は週末も仕事などを理由に家にいませんでした。母親は私と妹が小学生の頃までは時短勤務をしてくれていたようで、学校から帰ったらいつも家にいてくれました。休みの日にも遊びに連れて行ってくれたり、一緒にお菓子を作ったり、母親とだけいろんな思い出がありますね」
そんな両親には上下関係があったと、当時を振り返ります。
「全然家にいない父親なのに、何かを一緒にするときには一番優先しないといけなくて。たまに食事が一緒になるときがあると、最初にご飯を食べるのは父親で、お鍋などでは父親がよそうまでは何もしたらダメでした。一番覚えているのは、おせち料理にはいつも頭のついたエビが2匹入っていたんですが、それはすべて父親のものだったこと。当時は食べたいと言い出せない空気もあって、当たり前のことだったから怒りとかもなくて。それに母親が何の文句も言わずに父親の身の回りの準備をしていたこともあって、私は母親のことが好きだったからそれが正しいことだとインプットされていたんだと思います」
週末は単独で出かけることが多かった父親の代わりに、母方の祖父母と一緒に出かけることが多かったそう。
「父親の実家は九州で母親の実家は大阪だったこともあり、交流があるのも母方の親戚だけでした。車で1時間もかからない距離のところに祖父母の家があり、休みの日にはよく母親の運転で遊びに行っていましたね。大人になってから父親との交流が薄いことを言うと『寂しかったでしょう』と周囲から同情されることが多いんですが、祖父母のおかげで寂しい思いをした記憶はありません。母親は一人っ子で結婚が早かったこともあり、孫は私たちだけで祖父母もまだ若かったので、いっぱいかわいがってもらいましたから」
【父親が嫌い、から、そんな人と結婚した母親がかわいそうという思いに変わる。次ページに続きます】