私の人生、こんなはずじゃなかった

お盆に、義父を義母の墓参りに連れていった。義母は、再婚相手と一緒に永代供養にしている。名前だけ一緒に彫ってもらった。義父は、苗字のかわった義母の墓碑をじっと見つめていたという。

「再婚したことを理解できたかはわかりません。義父は何も言いません。『再婚して名前がかわったんよ』と教えてあげると、口元が何か言いたげでしたが」

義父は義母と離婚してからも、義母の服や布団をそのままにしていた。義父を関西に呼ぶことを決めたあと、家を掃除しようと夫が昔のこたつ布団を燃やそうとしたら、「母ちゃんがつくったこたつ布団を何で燃やすのか」と怒ったという。

「まあ、義父の家はとにかく汚くて、捨てられなかったのは義母のものだけじゃなかったんですが(苦笑)。正直なところ、家ごと燃やしたいくらい。田んぼや畑、すべて叔父に差し上げたいと思っています」

将来、この墓に義父も合葬するつもりだ。そして自分たち夫婦も――。

「一緒に暮らしていると、義父はもう家族なんです。今日も昼寝から起きてきた義父に、『どうも、こんばんは。今日も1日ご苦労さま』と言われて、2人で笑いました。真面目で面白い、そんな義父をかわいいと思います」

その反面、「まだ介護をはじめて1年半……ものすごく長く介護している気分。ホンマは介護は気持ちがしんどくて昇華できていない」とも言う。

「義父のことが好き」というのは本音だけれど、「お金があれば別居したい」というのもまた本音。義父との会話は「テレビに出ている人が生きているのか」「この人は何歳か」ばかり。これにも飽きたというのもまた本音なのだ。

「私の人生、こんなはずじゃなかった」という思いはいつもある。

「特にはじめの半年は、仕事を辞めて介護している自分がみじめでした。人として役立たずだと。主人にも見放されたようで、毎日泣いていました。でも今は、ここが自分の居場所。義父と楽しく生きるのを目標に、長生きしてもらいたいです。そして最期に義父に『ありがとう』、義父からも『ありがとう』とお別れできるように接したいです。義父が私のことをどう思っているかはわかりませんが」

義父に長生きしてもらうには、まずは介護者の心身の健康が第一。せめて義父をショートステイに預けて、一晩だけでもゆっくり眠ってください、迫田さん。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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