取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
日本人の食卓に欠かせない味噌汁。一時は味噌汁を飲むと高血圧になりやすくなると敬遠されましたが、近年、味噌汁には抗高血圧作用があることが分かり注目されています。味噌汁には具材を入れるので、不足しがちな野菜や大豆製品を食べられる魅力も。女子栄養大学名誉教授の五明紀春先生(以下、五明)に聞きました。
味噌汁には抗高血圧作用がある
――味噌汁は高血圧の原因にはならないのでしょうか。
五明 「味噌には塩分が含まれるので高血圧になると言われてきましたが、ここ数年くらい日本人による研究や疫学調査の結果、味噌汁を飲んでも高血圧を誘発しないということが分かりました。味噌の成分には高い血圧を調節する血圧調整成分のペプチド類が含まれていることから、正常な血圧に導くメカニズムも解明されています」
――減塩のために味噌汁を飲むのを控えている人もいますが。
五明 「4、50年前から、味噌は食塩を多く含むので味噌汁を飲むのは控えましょうというキャンペーンが全国的に行われました。味噌汁を飲む回数を減らしたり、味が薄い、具材しか入っていないような味噌汁を飲んだりすることが推奨されたのです。しかし、ここ10年くらいの間に、味噌汁を規則的に食事に取り入れて飲んでいる人は、高血圧になりにくいということが分かりました」
――味噌汁は高血圧以外の病気も抑制するのでしょうか。
五明 「国立がんセンター研究所(現・国立がん研究センター研究所)の平山雄先生らが約27万人の日本人の食事調査をした時に、味噌汁を毎日飲んでいる人と全く飲まない人を比較したのですが、味噌汁を毎日飲む人は胃がんの罹患率が低く、全く飲まない人は罹患率が高いという結果になりました。糖尿病や乳がんを抑制するというエビデンスもあり、大豆イソフラボンを豊富に含んでいるので骨粗しょう症の予防にも有効です」
具沢山の味噌汁は一石二鳥
――味噌はどのように食べるといいのでしょうか。
五明 「日本人は1200~1300年もの間、味噌を食べてきて、味噌は伝統的な調味品として重要な位置を占めるようになりました。推奨されるのは、味噌そのものを舐めるということではなく、味噌汁にして食べるということです。一食にごはんと味噌汁、主菜、副菜というのが日本人の遺伝的な特徴に合った食事のスタイルです。味噌汁を取り外してしまうと、日本の食文化の形が乱れてしまいます。食事の形、様式をきちんと支える献立の要素として味噌汁を位置付けてください」
――味噌汁にすると具材もたっぷり食べられますね。
五明 「日本人は野菜不足の傾向にありますが、野菜を味噌汁の具にすると煮野菜になるのでたくさん食べられます。野菜の食物繊維を摂取するためにも味噌汁を重視した食事がおすすめです。野菜にはカリウムが含まれているものが多いので、味噌の塩分のナトリウムの排出を促し、血圧が上がるのを防ぎます。むしろ血圧を下げるように働くのです。野菜に加えて海藻やきのこ、豆腐や油揚げのような大豆製品をいろいろ取り合わせてください」
――味噌汁は一日何杯くらい飲めばいいでしょうか。
五明 「1食1杯、1日に朝昼晩3杯です。いくら健康にいいと言っても、1日に10杯とか30杯飲むと、腎臓に負担がかかってしまいます」
味噌の種類は好みのものを
――味噌にもいろいろ種類がありますが、どの味噌を使えばいいのでしょうか。
五明 「味噌は麹の種類によって米味噌、麦味噌、豆味噌(愛知県の八丁味噌)の3つのタイプがありますが、どれも基本的な性質は同じです。日本人の8割以上の人は米味噌を食べていますが、好みのものを使うといいでしょう。最近、インスタントの味噌汁でも非常においしいものがたくさん出ています。味噌も具材もたっぷり入っている商品があるので、そうしたものを利用してもいいでしょう」
――減塩味噌はいかがですか。
五明 「減塩味噌には味噌をたくさん使いながら、なおかつ塩分を控えられるというメリットがあります。普通の味噌は減塩味噌に比べると塩分が多いので、そのことが気になる方は、減塩味噌を多めに使ってもらって、味噌の香りや美味しさといった風味を生かせる味噌汁にしてもいいでしょう」
取材・文/渡辺陽(わたなべ・よう)
大阪芸術大学文芸学科卒業。「難しいことを分かりやすく」伝える医療ライター。医学ジャーナリスト協会会員。小学館サライ.jp、文春オンライン、朝日新聞社telling、Sippo、神戸新聞デイリースポーツなどで執筆。