彼女は50代後半だから、そういうこともわかってくれた
大山さんと彼女は、都心の外資系ホテルのレストランで食事をし、そのまま部屋に泊ってしまった。「離れがたかった」というのがその理由。
「恥ずかしい話、最初は全くできなかった。でも、彼女は50代後半だから、そういうこともわかってくれていた。しかも、男心を傷つけないんだよね。経験豊富なんだろうけれど、そういうことは微塵も出さない。彼女と私には共通点が多い。郊外の中流家庭に育ち自分の才覚ではい上がって来たという環境、モノの考え方、全てが似ていたので、3回目のデートでプロポーズしてしまった」
しかし、この結婚に横槍を入れたのは、息子とその妻だった。
「息子はボーっとしているから、何とも思ってないんだろうけれど、嫁さんがすごかったね。弁護士の友達を連れてきて、息子に入れ知恵して、“彼女に一切の財産を贈らないなら、結婚を許可する”と言ってくれと。息子の嫁はニコニコしながら家に遊びに来て、女房が買った現代アート作品を物色しては、息子の口を介して“譲ってくれ”と伝えて来る。息子に“俺たちに財産を譲ると遺言書を書いてくれ”と言われた時は驚いたよ」
しかし、大山さんは波風を立てたくなかった。それに、彼女がそれに反論したら、財産目当てだと判断し、付き合い方を変えようと思ったという。
「それとなく彼女に伝えたら、“いいわよ、一筆書くわよ”と。聞けば彼女のほうにも少なからぬ資産があった。入籍するといろんな問題がおこるから、一緒に住むだけにした。友達だけで軽く結婚式をしてね、還暦再婚って笑われたけれどたのしかった。生活が落ち着いてから、女房が亡くなってから荒れ果てた庭を彼女と手入れをした。でもいいのは“同じ家に帰る相手がいる”ことだよね。近所で散歩しても、旅行に行っても同じ方向に歩いていく相手がいることが、どれだけありがたいか。もちろん、肉体的にも自信がついてそちらも満足しているよ」
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。